クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2022/10/8 新国立 ジュリオ・チェーザレ

2022年10月8日   新国立劇場
ヘンデル  ジュリオ・チェーザレ
指揮  リナルド・アレッサンドリーニ
演出  ロラン・ペリー
管弦楽  東京フィルハーモニー交響楽団
マリアンネ・ベアーテ・キーランド(ジュリオ・チェーザレ)、加納悦子(コルネリア)、金子美香(セスト)、森谷真理(クレオパトラ)、藤木大地(トロメーオ)、ヴィタリー・ユシュマノフ(アキッラ)   他


長い第一幕が終わって会場が明るくなった瞬間、近くに座っていた女性が、隣のお連れさんに向かってため息交じりに言った。

「単調~~」

クックックッ。分かる(笑)。実は私も以前はバロック・オペラが苦手で、その理由の一つが「単調」だったから。
どのアリアもほとんどと言っていいくらいリピートが施されるが、はっきり言って3回はいらんな。2回でよろし。そうすりゃ、やたらと長い上演時間ももっとスリムになるじゃんか。

今、そうした苦手意識はもう無い。すっかり克服した。その単調さこそ、逆にバロック・オペラの個性であり妙味だと言ってもいい。きれいな旋律を何度も味わう。
よくよく聴いてみると、歌手の方がちゃんと工夫を凝らしていて、強弱を変えたり、アドリブ音形を入れたりし、表現に多彩さを組み込んでいる。慣れてくると、段々とそうした魅力に気が付いていく。

上の女性には、是非そこまで辿り着いてほしいものですな。


新国立劇場の大野芸術監督は、任期中の方針、目玉の一つとして、バロック・オペラを採り上げ、シリーズ化しようとしている。昨シーズンの「オルフェオとエウリディーチェ」に続く第二弾。
と言っても、本当はこの「ジュリオ・チェーザレ」が先に上演されるはずだった。2020年4月に予定されていたが、コロナで中止に。今回ようやく実現の運びとなったのは、喜ばしい限り。出演者も、制作に携わった関係者も、ホッと胸を撫で下ろしていることだろう。


パリ・オペラ座からレンタルしたというペリー演出が、最高に楽しい。
古めかしい物語を現代に蘇らせるために、舞台を古代博物館の収蔵庫に設定したアイデアが秀逸。眠っている収蔵品が悠久3千年の時空を飛び越え、目を覚まし、物語を紡いでいく。それはすなわち、「オペラ芸術は過去の遺物ではなく、今も生き生きと息づく伝承された文化なのだ」という演出家のメッセージにもなっているような気がする。

更に深読みすれば、「読替えによる現代演出の意義」のさり気ない暗示と言えなくもなく、現代人の我々としてもこのメッセージをしっかりと受け取るべきだと思う。
「古い物を蘇らせる」
そういう意味では、まさに古い物の典型であるバロック・オペラこそ、現代風読替え演出を施すのに適した作品と言えるのかもしれない。
で、現代に甦った作品を鑑賞した時、実は長い年月が経過しても人間の本質や感情というのはそんなに変わらなくて、「なんだい、昔も今も一緒だな~」なんて改めて認識するわけである。


アレッサンドリーニ指揮の音楽や奏法は、コテコテの古楽アプローチというほどでもなく、比較的オーソドックスだったが、案外これくらいがちょうど良い湯加減かもしれない。
第一幕のピットの中で、ホルンのソロが超絶で、びっくり仰天した。

歌手の中では、主役級は皆ほどほどに佳演。それよりも、脇役であるニレーノ役の村松さんが予想外の存在感発揮で二重丸。それから、これまで何だかあまり良い印象を持っていなかったユシュマノフも、今回は見直した。


最後に、カーテンコールの儀式で、コロナ渦で控えられていた歌手たちのお手々を繋ぎながらの答礼、これがしれっと復活していたこと、観客の皆さん、ちゃんと気が付いたかな。