クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/9/26 ローマ歌劇場 トスカ

2023年9月26日   ローマ歌劇場    東京文化会館
プッチーニ   トスカ
指揮  ミケーレ・マリオッティ
演出  フランコ・ゼッフィレッリ
ソニア・ヨンチェヴァ(トスカ)、ヴィットリオ・グリゴーロ(カヴァラドッシ)、ロマン・ブルデンコ(スカルピア)、ドメニコ・コライアンニ(堂守)、ルチアーノ・レオーニ(アンジェロッティ)   他

 

4年ぶりの外来オペラ公演鑑賞である。なかなか感慨深い。
・・と言いつつ、実際のところは行くかどうか躊躇した。
あまりにもベタすぎる演目。何の目新しさもない、古いオーソドックス演出。
本公演は、メチャ高いチケット代に見合う価値が本当にあるのか? 決断するのに時間がかかった。(もう一つの演目は、当然のごとくスルーした。最初から眼中に無しだった。)

納得の決め手になったのは、出演歌手と指揮者であった。

ソニア・ヨンチェヴァは、今、世界最高のトスカだろう。そのヨンチェヴァのトスカを観られるのなら、文句はない。ヨンチェヴァの圧倒的な歌唱を聴けるのなら、他のすべてに目をつぶることが出来る。
「せっかく東京でヨンチェヴァがトスカを歌うのに、これを聴き逃せば絶対に後悔する。」
そう言っても過言ではないし、実際そのとおりだった。
完璧な歌唱技術、のびやかな声、情感豊かな表現力、孤高の存在感を放つ演技力・・・。
すべてにおいて、別格、異次元だった。

ヴィットリオ・グリゴーロは、華やかなスター歌手だ。彼が歌うと、そこにスポットライトが当たる。ただ、そのことについて本人が自意識過剰なのが、鼻につく。演技もいちいち仰々しい。まあ確かに歌は上手いし、スターの習性だから、仕方がないことなのか。

ロマン・ブルデンコは、悪役が堂に入り、決まっていた。今年4月、ベルリン・ドイツ・オペラで、彼が歌う「運命の力」のドン・カルロ役を聴いたが、歌唱、役への入込みなど格段に今回の方が良く、凄みが際立っていた。


指揮のマリオッティ。
私はこの指揮者が超優秀であることを既にもう知っているので、今更のごとくもてはやすことはしない。本公演でも、歌手への寄り添いが絶妙絶品で、華やかなグランドオペラを創出していたが、これくらいは当たり前。特別なことではなく、いつもながらのお見事な出来栄えであったと思う。


演出について。
ゼッフィレッリということで、豪華な舞台を期待し、そのとおり豪華な舞台を目の当たりにして大満足のお客さんはきっと多かったことだろう。

私はと言うと、海外で主流になりつつある、演出家が強く主張して観客に問いかける現代演出にむしろ面白さを見出すようになると、古色蒼然としたオーソドックス演出は、時として退屈に感じる。
今回の舞台でも、「果たしてゼッフィレッリは、この演出を通じて何を伝えたかったのだろう?」と一生懸命に考え、「何も無いじゃんかよ・・・」と、結局見透かしてしまった。

いや、本当は何も無いわけではない。
彼にとって豪華な舞台というのは、物語に真実味を加えるための、観客の目を引きつけて物語にいざなうための、最善の手段であり、方策なのだ。それは、きちんと認めないといけないのだろう。

一つ残念だったのは、同じく彼が演出したメトロポリタン・オペラ版に比べ、そのセールスポイントの豪華さにおいて見劣りがしたということ。

第一幕のサンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会の中なんか、メトでは「教会そのまんま」に仕立てられているのに対し、ローマ版は「舞台上に設営した」感でいっぱい。
第三幕のサンタンジェロ城では、メトだと、カヴァラドッシが収監されている地下牢屋と、処刑場所の城の屋上が二段のせり上がりになっていて、目を見張る舞台転換をやっているのに、ローマ版はずっと城の屋上で舞台転換無し。

なんだか「メトは予算が潤沢だけど、ローマはお金が無いので、この程度」みたいな現実の一面を見せつけられているみたいだった。


最後に、あと二つ。
まず、児童合唱で出演したNHK東京児童合唱団について。
一生懸命頑張っている子どもたちに文句を言いたくはない。実際、彼らは演出チームや指導する先生たちの指示に忠実にやっていたのだから、これから述べる指摘はそうした大人たちに向けて忠言することとしたい。

演技がとにかく画一的である。
リハ段階で、「ハイ、ここはみんなで喜んで飛び跳ねて」と言われると、全員が同じタイミング同じ動きでぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ハイ、ここはこっちの方向を向いて」と言われると、全員が同じタイミングで一斉にこっちを向く。

なんだか操り人形みたいで、ホント気持ち悪かった。子どもたちの天真爛漫な自由奔放さを、大人たちが奪い、強制しているみたいだった。


次に、会場で売っていたヨンチェヴァの写真集について。
この写真集(もしくは最新のCDアルバム)を買うと、特典として公演後のサイン会に参加でき、サインを貰えるとのことであったが・・・。

写真集って・・・。
ヨンチェヴァさん、あなた、なんか勘違いしてない??(笑)