2015年7月21日 サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル
プッチーニ トスカ
指揮 フィリップ・オーギャン
演出 キース・ウォーナー
ジョアンナ・ルサネン(トスカ)、カメン・チャネフ(カヴァラドッシ)、エリア・ファッビアン(スカルピア) 他
会場に向かう途中、幼児向け公園の遊び場で、一人のイタリア人を発見。彼の名はジュゼッペ・フィリアノーティ。
うわー、こういうところで見かけるか。頼むから遊んでないで今夜のカヴァラドッシ歌ってくれ・・・。
彼はトスカのメインキャストとして本フェスティバルに出演中であった。この日は残念ながらセカンドキャストの日。旅程の都合上、仕方がなかったのである。
ということで、歌手よりも注目してしまうのが奇才ウォーナーの演出だ。
場内に入ると、舞台はなんと墓地。登場人物の役柄や場所など設定があまりにも固まっているため、基本的に読替演出が難しいトスカ。なのに、いきなりそうきたか。
演出上のハイライトは、第一幕ラストのテ・デウムの場面。なぜ墓地なのか、ここで詳らかになる。
「行け、トスカよ。」
スカルピアが心に秘める欲望を高らかに歌う中、聖堂内、ではなく墓地に人々が集まってくる。本来の筋書きならミサに参加する人々なわけだが、この人々、なんと土に埋もれた墓の下からゾンビとなって蘇ってきた死者たち。更には、憎悪の感情を漲らせながら集まる女性たち。
そうか!なるほど。
彼らは悪徳警官スカルピアの魔の手にかかって処刑されたり、陵辱されたりした犠牲者たちなのだ。
一同はスカルピアを取り囲み、強い怨念で「このうらみはらさでおくべか・・・」と彼を指差す。
それに対し「黙れぇ、貴様ら!失せろ!」と腕を振りかざして拒絶するスカルピア。
現世では強大な悪の権力が勝った。ゾンビや女性たちは残念ながらこれに屈し、ばたばたと倒れるところで幕。
うっへぇー、そう来たか。さすがウォーナー、面白え!
演出上のその他のポイントとしては、カヴァラドッシ銃殺の場面では彼一人ではなく複数の囚人の一斉処刑だったこと、それからトスカの身投げの場面では飛び降りるトスカの映像を壁に投射しつつ、実際のトスカは墓場の棺桶の中にバタリと倒れ込むこと、など。実に個性的である。
セカンドキャストの歌手について。
トスカとカヴァラドッシのご両人については、良い点と悪い点の両方が見受けられたが、ここでは良い点だけを紹介したい。
え?それって褒めているのかって?
褒めてるつもりですが、なにか・・・。
トスカのルサネンは、60年代から70年代頃のプリマドンナみたい。
大きな歌唱。抑揚たっぷり。歌だけでなく体つきも貫禄そのもの。演技もやっぱり往年型で、大雑把。
え?それって褒めているのかって?
だーかーらー、褒めてるんだってば(笑)。
個人的にはドスが効いた憎々しい声のスカルピア役ファッビアンが好印象だった。
指揮者のF・オーギャンは、いつものとおりオケをガンガン鳴らし、繊細のかけらもなかったが、むしろこれくらいダイナミックな方がスペクタクルでいいかもしれない。特設会場で開催されるフェストなのだから。