クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

ザルツ・イースターの「トスカ」

4Kテレビについて、先日記事に書いた。衝動買いをしたはいいが、8Kに比べてどうしても見劣りし、なおかつ高画質に相応しいコンテンツも少なくて、なんだか滑ってしまった感が満載の、私のテレビライフである。
それでも、NHKが収録したオペラやコンサートの高画質放送番組には、大いに期待をしているのだ。
 
色彩豊かな自然の景色などの番組で大いに威力を発揮する高精細高画質映像だが、オペラなど舞台公演の放映でも、その効果はきっと大きい。照明器具に頼っているステージにおいては、そうした状況下でどれだけ鮮明さを映し出せるかが重要だからである。
 
ということで、先日、2018年ザルツブルクイースター音楽祭で上演された「トスカ」の収録映像を、4K放送で観た。
C・ティーレマン指揮シュターツカペレ・ドレスデンの演奏、A・ハルテロス(トスカ)、A・アントネンコ(カヴァラドッシ)、L・テジエ(スカルピア)らの出演による。
 
やはりというか、高画質映像は臨場感に優れる。「生で観ているよう」とまではさすがにいかないが、舞台の魅力は伝わってくる。出演者の表情がよく捉えられているし、衣装の映えも良い。
 
しかし、映像の美しさに見惚れるのは、最初のうちだけだ。
私はオーディオ・ビジュアルのマニアではなく、クラシック音楽の愛好家。すぐに演奏そのものに集中し、演出の意図について探りを入れ始めるのである。
 
今回、M・シュトゥルミンガーによる読替え現代演出には、大いに目を見張った。
 
幕開けからして、度肝を抜かれる。
脱獄犯アンジェロッティは、追いかけて来る警察とカーチェイスし、撃ち合いで激しい銃声が鳴り響く中、サンタンドレア・デッラ・ヴァッレ教会に逃げ込んでくるという設定だ。こりゃすごい。
 
最大の見どころ、それは、第二幕でトスカに刺されたスカルピアは実は絶命しておらず、瀕死の重傷を負いながらも必死にトスカを追いかけ、最後にそのトスカをピストルで撃って殺すというラストシーンだ。トスカは身投げせず、なんと、執念で追いかけてきたスカルピアに対して自らも応戦に打って出るが、あえなく撃ち殺されるのである。
なんという衝撃! これには本当にひっくり返った。
 
一般的にトスカは、読替えによる現代演出に不向きである。
なぜなら、時代と場所が完全に特定されているからだ。
不向きというか、普通に考えたら不可能だし、それをあえて読み替えたところで、大抵の場合、失敗する。
 
今回はどうだったか。
 
失敗したかどうかはさておき、インパクトは絶大であった。
想像力と探求力を働かせ、既存の概念に新たな視点を投入し、舞台演出の可能性、ひいてはオペラ上演の可能性を広げようとするその試みは、きっと意義があるのだと思う。
 
現代演出が苦手、嫌いな人たちは、おそらく何をどうやったところで「NO!」だろう。「単なる思いつきだ」「単なるこじつけだ」と酷評するかもしれない。
 
だが、私は演出家が見つけ出した一つの着眼点から、今回の演出のポイントを支持したい。
 
それは、トスカが身を投げる際に発する言葉だ。
 
「おおスカルピアよ! 神の御前で!」
 
なぜトスカは、この場面でカヴァラドッシではなく、「神様!」でも「おかあちゃーん!」でもなく、スカルピアの名を叫ぶのか。
謎である。(たぶんきっと、諸説はある。)
演出家シュトゥルミンガーは、その謎について迫り、一つの回答を示したのだ。
 
演出家は演出家なりに考えている。その姿勢は、私は買いたい。