2023年7月23日 東京フィルハーモニー交響楽団 オーチャードホール
ヴェルディ オテロ(コンサート形式上演)
指揮 チョン・ミョンフン
合唱 新国立劇場合唱団
グレゴリー・クンデ(オテロ)、小林厚子(デズデモナ)、ダリボール・イェニス(イアーゴ)、相沢創(ロドヴィーコ)、フランチェスコ・マルシーリア(カッシオ)、村上敏明(ロデリーゴ)、中島郁子(エミーリア) 他
チョン・ミョンフンの演奏会形式によるヴェルディ。昨年の「ファルスタッフ」に続き、今年は満を持して、ついに「オテロ」!
・・と言いたいところだが、チョンのオテロは、2013年、フェニーチェ歌劇場来日公演で既に披露済だ。
で、この時オテロ役を歌ったのは、今回と同じクンデ。
ついでに、カッシオを歌ったのも、今回と同じマルシーリア。
クンデの場合、2019年、ロイヤル・オペラ・ハウス来日公演でも同じタイトル・ロールを歌っているから、どうしても新鮮味には欠ける。
しかし、仮に新鮮味に欠けていたとしても、その歌唱は驚異的なので、十分すぎるほどの満足感を得ることが出来る。
クンデ、すっげぇーな・・。
69歳だってさ。その年齢を感じさせない圧倒的パワー。
今なお世界最高のオテロの一人ではなかろうか。信じられん。
4年前のR・O・Hの時は、演出上、黒黒とした髪のかつらを着け、それが逆に変な若作りで違和感があったが、今回は演奏会形式ということで普通の身なりだったことから、「その歳だというのに、すごい!」感がより一層際立った。
D・イェニスのイアーゴも安定、盤石の歌唱。
イアーゴらしい毒々しい凄みには欠け、スマートだが、そもそも昔に比べると、わざとらしくクセのある歌い方を強調する歌手は減ってきている感じがする。演技や歌い方というのは、もしかしたら時代の流れがあるのかもしれない。
デズデモナの小林さんは、透き通った瑞々しい歌唱が好印象。
今年5月に三河市で聴いた「アンドレア・シェニエ」のマッダレーナ役も良かったし、彼女は今や日本を代表するソプラノの一人ではなかろうか。
指揮のチョン・ミョンフン。
彼がタクトを振ると、東京フィルの音が変わる。オーケストラ奏者たちがマエストロに付いていこうと前のめりの演奏を繰り広げるからだ。毎度感じることだが、その献身性には、舌を巻くばかり。
ブロムシュテットのように、偉大なるカリスマ性、神々しいほどのオーラでオーケストラを導く指揮者がいる。
その一方で、豊かな音楽性と強い集中力で各奏者の心を掴み、グイグイと引っ張る指揮者がいる。
チョンは紛れもなく後者。オーケストラがチョンの音楽に完全に心酔し、吸い寄せられているのが手に取るようによく分かるのだ。
これぞ、20年以上にわたって強い絆で結ばれている結晶。
それを目の当たりにすることが出来るのは、我々聴衆としても幸せなことだと思う。