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2023/6/5 ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル

2023年6月5日   ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル  東京オペラシティホール
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)、アンドレアス・ヘフリガー(ピアノ)
ベートーヴェン  ヴァイオリン・ソナタ第9番「クロイツェル」、第10番


ひらりん、4年半ぶりの来日。その間も来日が予定されていたが、コロナで公演が中止になってしまい、ようやく実現した。待ち遠しかった多くのファンが会場に駆けつけ、チケットはソールドアウトしたとのこと。

プログラムはベートーヴェンソナタ。彼女のベートーヴェンを聴くのは、私は初めてである。

演奏するにあたり、さりげなく眼鏡をかけていたが、以前からそうしていたっけ?
かつての天才少女、クール・ビューティの雰囲気は影を潜め、すっかり落ち着いたレディーになっている。もうそろそろ親しみを込めて「ひらりん」って呼ぶのは、こちらも卒業しなくては。


演奏も、やはり以前からは少しずつ変貌を遂げている模様。
相変わらず瑞々しく端正ではあるが、懐が大きくなり、音色の中に内面の充実さが滲み出るようになった。彼女の持ち味である正確な音程、完璧なテクニックも、もはやそれ自体重要ではないかのごとく、作品に対して真摯に向き合い、アプローチしていく。
もちろんこうした印象は「ベートーヴェンだから」、というのはきっとあると思うが、ヴァイオリニストとしてますます成熟しているのは間違いないと思った。


一方で、今回初めて、彼女の弱点を見つけてしまった。
いや、弱点だなんて、そんなことを言うのは大変おこがましいが、あくまでも「個人的にそのように思った」ということでお許しいただきたい。

それは、彼女の音楽的な追求が自分が弾くヴァイオリンのところで留まっており、伴奏のピアノ・パートに及んでいないということである。

なんでこのことに気が付いてしまったかと言うと、今回のピアノのヘフリガーが淡々黙々と独自のピアノを演奏していて、そうした時、彼女が演奏全体のためにリードをしようとせず、「ヴァイオリンとピアノの二つを足して作品を完成させる」に到達していなかったのだ。

もちろん、本来これはピアニストの責任である。
だが、いかにもそこに無関心を装っているかのようなハーンの孤高の演奏は、正直ちょっと驚いた。

それゆえ、アンコールで演奏されたバッハの無伴奏パルティータ2番のサラバンドが、余計に染みた。だったら、いっそのこと今回は彼女の最新録音、イザイの無伴奏ソナタ集を演奏してくれた方が、よっぽど良かったのではと思った。(CD販売の宣伝にもなるだろうし)


ここで、会場で配られたプログラムの表紙がふと目に止まった。
ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル」と書いてあった。

そうか、「ヒラリー・ハーンアンドレアス・ヘフリガー デュオ・リサイタル」ではなかったんだな。
演奏作品も、「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」じゃなくて「ヴァイオリン・ソナタ」。

つまり、そういうことか・・・。