クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/12/21 青木尚佳 ヴァイオリン・リサイタル

2023年12月21日   青木尚佳 ヴァイオリン・リサイタル   紀尾井ホール
《紀尾井レジデント・シリーズⅢ-第1回》
イザイ  無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全曲(第1番~第6番)

 

本公演に行こうと思ったきっかけは、何を隠そう青木さんではなく、ヒラリー・ハーンだった。
ヒラリンがイザイの無伴奏のアルバムCDを制作し、セールになったのを知った時、何だか無性にコンサートでイザイを聴きたくなった。「リサイタルで、誰かやらないかな?」と思っていたところ、ジャストタイミングで本公演を見つけた。
「おお、あったじゃん。で? 演奏者は誰?」
そんな感じ。もしかしたら、この時は正直、イザイを聴けるのなら誰でも良かったのかもしれない。

青木さんのことはもちろん知っていた。「ミュンヘン・フィルのコンサート・マスターに就任」という情報は入っていたし、2021年6月のN響定期公演で、シベリウスのコンチェルトも聴いていた。聴きたいと思ったイザイのプレーヤーとして、まったく申し分なかった。


今回のプログラム、イザイの無伴奏ソナタ全6曲。
ヴァイオリンを本格的に演奏する人、ヴァイオリン作品をある程度知っている人なら、いかにこれが傑作で、なおかつ難しい作品か、理解していると思う。バッハのソナタ&パルティータ、パガニーニの24のカプリースに負けず劣らずではないか。
リサイタルで、あるいはコンチェルト演奏後のソリスト・アンコールとして、どれかの1曲1楽章を演奏するというパターンは結構多いが、こうして全曲を一挙に演奏するのは、ヴァイオリニストとして、プロ奏者として、チャレンジングな機会なのだと思う。


青木さんの演奏は、月並みな感想だが、素晴らしかった。
このレベルのクラスだと当然かもしれないが、決して「難しい曲を弾いてみました、全部通してやりました」で終わることがない。テクニックのひけらかしでなく、作品に向き合い、一つ一つの曲にスポットを当てる作業。音楽的に掘り下げ、各曲の様式を見定めながら、全体の流れの中でしっかりとストーリーを展開させていく。時に、献呈された当時の偉大なヴァイオリニストのイメージを膨らませながら。
また、研ぎ澄まされた緊張感を保ちつつ、同時にその緊張感を開放させていくかのようなアプローチも感じられ、そうした部分も興味深かった。

トータルとして思ったのは、「まさにソリストの演奏だな」ということ。そこに「名門オーケストラのコンサート・マスター」という風構えはまったく感じられなかった。
例えば、ウィーン・フィルコンマス、キュッヘッル、シュトイデ、ホーネックなどのソロを聴くと、演奏の中に、コンマスらしさ、オーケストラ奏者らしさが滲み出ることがある。
もちろんそれは、良い悪いの問題ではない。経歴や経験、個性、スタイルによって違いがあるのは当然だ。

青木さんは、これからミュンヘンでの活動、経験を積んでいきながら、どのような演奏者になっていくのだろう。
まずは、ミュンヘン・フィルのコンサートで、彼女がオーケストラを牽引する姿を見てみたい。そう思った。
来日してほしいなー。