2018年4月12日 マリア・ジョアン・ピリス ピアノリサイタル サントリーホール
疲れている時、癒やされたい時。泣きたい時でもいい。ピリスのピアノを聴くのがいい。
ピリスの優しく、柔らかく、そして美しいピアノが実に染みる。
この日のリサイタル、プログラムはオールベートーヴェンだが、まるでショパンのような詩情に溢れた、美麗のピアニズムだった。ベートーヴェンらしい風格や品格は影を潜め、叙情的で素朴。解釈や技術に着目する必要はなく、心を無にして音楽に身を委ねれば、そこに至福の時間が訪れるというわけだ。
本当に人生の到達点のような極みの作品。彼女の有終の美を飾るのにこれほど相応しい作品はない。
演奏が終わり、ほんのわずか、静寂があって、その余韻の中にピリスのピアニストとしての集大成が詰めこまれた。間の後に贈られた聴衆からの温かい万雷の拍手。手を合わせるかのようにお辞儀し、答礼するピリス。美しい瞬間だった。
「これで終わりなのですね、ピリスさん」と思ったら、そう言えばN響とのコンチェルトがまだあったっけ。お別れのご挨拶は、もう少しだけ先延ばし。