クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/4/12 パルジファル

2023年4月12日   ウィーン国立歌劇場
ワーグナー  パルジファル
指揮  フィリップ・ジョルダン
演出  キリル・セレブレンニコフ
ミヒャエル・ナジ(アンフォルタス)、ヴォルフガング・バンクル(ティトゥレル)、フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(グルネマンツ)、クラウス・フロリアン・フォークト(パルジファル)、エカテリーナ・グバノヴァ(クンドリー)    他


およそ4年ぶりのウィーン国立歌劇場で、ちょっとした変化が起きていた。チケット申込みについてだ。
以前、ウィーン国立歌劇場は、チケットのオンライン予約販売業務をCulturallという社に代行委託していた。
ウィーン国立歌劇場のHPでチケットを予約しようとすると、そこから同社のサイトに移行。申込みをし、チケットが取れたら確認書がメールで送付され、実際のチケットは現地のウィーン劇場連盟のオフィス窓口か、もしくは当日の劇場カウンターで引き取る、というものだった。

現在はCulturallのシステムを介さず、劇場の公式HPからダイレクトに申込みを受け付け、直売している。
申込みをすると、公演日の前だいたい2か月から3か月の間にメール連絡が来る。チケット確保に成功していれば、同時にQRコード付きの電子チケットが添付される。
つまり、いちいち予約確認書を持参して窓口に出向き、チケットを引き換える手間が省けるようになった。


公演の話に移ろう。
本公演のポイントは、次の3つ。(あくまでも私個人にとって)

第一に、ウィーン国立歌劇場パルジファルを観るのは初めてだということ。
第二に、K・F・Vのパルジファルを聴くのも初めてだということ。
(2018年のバイロイト音楽祭で、フォークトが出演するはずのパルジファルを鑑賞したが、彼にはドタキャンを食らってしまった。)
第三に、ジョルダンが指揮したパルジファルを以前にグラーツ歌劇場で聴いたことがあって、ものすごく良かった。あの感動をもう一度得られるかということ。

鑑賞した感想としては、「これぞウィーン、さすがウィーン」という重厚なスペシャル感に包まれた。
音楽の質、響き、迫力、音の密度、懐の深さ、すべてにおいて特別、唯一無二。他を寄せ付けない孤高のパルジファル

今回の旅で、ベルリンのリングを聴いたし、バーデン・バーデンでBPOによるシュトラウスも聴いた。いずれも素晴らしかった。
特に、純粋な音楽的充実度、演奏の総合的レベルで言えば、バーデン・バーデンのシュトラウスは究極絶品だった。

だが、ウィーンでは、技術やレベルの範疇、他との比較論を超越し、「自分たちのワーグナー」という伝統の底力とプライドをまざまざと見せつけられた。
例えば、私達がこの劇場を訪れ、そこでそびえ立つ壮観な建物を見上げると、その威容さに圧倒される。
今回のパルジファルは、まさにその感覚に近い。これこそが彼らの矜持なのだろう。


指揮者のジョルダン
私が初めて彼のタクトの演奏を聴いたのは、2003年9月。上に書いたとおり、グラーツ歌劇場でのパルジファルだった。この時の印象はあまりにも強烈で、今でも鮮明に覚えている。彼はイッソスの戦いでダレイオス3世に立ち向かうアレクサンドロス大王のように勇ましかった。
その時の衝撃が、今再びマグマの噴火となって蘇る。
20年という歳月を経て、彼は楽壇に登り詰め、ついに最高峰ウィーン国立歌劇場音楽監督として覇権を握った。
だというのに、その契約を更新せず、任期が切れる2025年で退任するのだという。
なんてこと・・・。嗚呼、ウィーンという名の伏魔殿。

クラウス・フロリアン・フォークトのパルジファル
ようやく彼のパルジファルを聴くことが出来た。待ち望んだ憧れの澄み切った歌声。美しいフレーズ、輝かしいトーン。そして、カッコいい容姿。
至高、理想のパルジファルを聴けた幸運を、私は心から感謝する。


演出について。
読替えで舞台の設定を変えている。
第一幕の場所は刑務所の中、囚人たちのための運動施設。クンドリーは囚人の様子を取材している雑誌フォトグラファー。
第二幕は、クンドリーが勤務するモード雑誌社の編集部内。
第三幕は、よく分からなかったが、ボランティアなど社会奉仕活動するための施設の中のように見えた。

いずれにしても、パルジファルによる救済伝説とは何の関係もない。ならば頭の中に「??」が浮かんでも仕方がないが、それほど気にならなかったのは、装置ががっしりと固まっていて構成感があり、舞台全体が一つの様式のような装いだったからだと思う。

また、パルジファル役につき、実際に歌う歌手に加えて、演技だけを行う黙役の俳優を配し、舞台に二人が登場していたのが特徴。
これ、歌手にとってはありがたい、おいしい演出であるに違いない。演技は全部俳優がやってくれるので、ある意味歌唱や音楽に専念できるからだ。

 

本公演をもって、私の3年ぶりの海外鑑賞旅行は終了。この“ウィーンの”パルジファルは、その最後を見事に飾ってくれた。

全体として、すべて計画どおり、すべての演目を無事に鑑賞出来たのは感無量。
交通機関も概ね順調だった。「もしかしたらストがあるかも」という噂にはヒヤヒヤしたが、何とか免れた。(そのストライキは結局4月21日に実施され、ドイツ全土で交通機関がストップした。やっぱりやりやがったか、てめー。)

これをきっかけに、私の海外旅行復活を高らかに宣言、といきたいところだが、以前と違うのは、とにかく物価や諸経費の割高感をひしひしと実感すること。飛行機代、ホテル代、食事代、現地で売っている物、すべてが「高ぇ!」と感じる。厳しい時代に突入していることは間違いない。