2023年4月29日 日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール
指揮 ピエタリ・インキネン
合唱 ヘルシンキ大学男声合唱団、東京音楽大学
ヨハンナ・ルサネン(ソプラノ)、ヴィッレ・ルサネン(バリトン)
シベリウス クレルヴォ
インキネン、首席指揮者として最後の東京定期演奏会。その最後の定期にクレルヴォを選んだというのは絶妙。フィンランド人指揮者として有終の美を飾るのに、これほど相応しい作品は無いのではなかろうか。
しかも、この演奏のためにわざわざヘルシンキから合唱を招いたというのも、絶妙。
演奏は素晴らしかったし、大きな感動に包まれたが、最もそれに貢献したのが、この合唱だったと思う。この日の演奏をもし名演と定めるのであれば、それはもう「曲」と「合唱団」を選定した段階で決まったも同然であった。
その合唱、配置を国内組と海外組とで一人ずつ交互に混合して並ばせていたが、正解だっただろう。
なぜかというと、フィンランド語の歌詞の中に「これは日本人がただローマ字読みするだけでは明らかに出て来ない」という濁音や曖昧母音や巻き舌の発音があって、もしこれを国内組と海外組で並びを区分けしていたら、下手すると演奏効果上の支障になりかねない事態にまで行っただろうから。
「インキネン、首席指揮者として最後の東京定期演奏会」と冒頭で書いたが、公演自体はまだ残っている。来月に再度来日し、「第九」を振って、それでおしまいとなる。
インキネンが日本フィルに残した功績、評価というのは、いったいどういうものだろう。
私がコンサート会場に足を運んで彼の指揮による演奏を聴いたのは、本公演を含めて合計9回。
この9回をもって評価を下すのは十分ではないかもしれないが、それでもあえて「個人的意見」として正直に言わせてもらうと、若干の物足りなさが残る。作品は丁寧に仕上がるが、「これがインキネンの音楽だ!」というインパクトに乏しいのだ。
ただし、インキネン本人としては、「やるべきことはやった」という達成感があるのではないか。
チクルスとしてシベリウス、ブラームス、ベートーヴェンの交響曲をやった。ワーグナーも、マーラーも、ブルックナーもやった。ヨーロッパ遠征も果たした。充実していたのではなかろうか。
彼は今年の夏、バイロイトにて指環チクルス上演が待ち控える。一昨年(訂正:2020年)にプレミエを迎えるはずだったのにコロナで中止になり、昨年(訂正:2021年)はわずかに「ワルキューレ」だけだった。(追加:昨年はインキネンがコロナ感染で出演できず。)
(※mathichenさん、御指摘ありがとうございます)
もしここで大成功したら、もしかしたら私の彼に対する見方も変わってくるかもしれない。
今年のバイロイトには、私の親しい知人(本当は友人と呼びたいが、大先輩なのでちょっと恐れ多い(笑))も馳せ参じることになっている。その知人の御方のためにも、是非素晴らしい演奏を披露してほしい。頑張れインキネン!