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2022/7/16 二期会 パルジファル

2022年7月16日  二期会  東京文化会館
ワーグナー  パルジファル
指揮  セバスティアン・ヴァイグレ
演出  宮本亞門
管弦楽  読売日本交響楽団
黒田博(アンフォルタス)、大塚博章(ティトレル)、加藤宏隆(グルネマンツ)、福井敬(パルジファル)、門馬信樹(クリングゾル)、田崎尚美(クンドリー)    他


まずは二期会創立70周年、おめでとうござる。
歌劇団体として名乗りつつ、その実態は歌手組合。劇場を持たず、専属オーケストラも首席指揮者も持たない、世界的に見てかなり特殊な運営方式でありながら、出演歌手はゲストを呼ばず頑なに「日本人」にこだわる。
一方で、著名な演出家を招聘したり、海外の劇場と共同制作契約を結ぶなど、独自性と一貫性を発揮。日本のオペラ芸術を牽引してきた存在感は、間違いなく70年という伝統の矜持と言えるだろう。

今回はその70周年の記念公演と銘打ち、フランス国立ラン歌劇場(ストラスブール)との共同制作で「パルジファル」に挑んだ。二期会は10年前にもこの作品を手掛けており、節目となる記念公演に相応しい作品と位置付けているようだ。

実は、先行して上演された国立ラン歌劇場の公演(2020年1月)、現地に観に行く計画を真剣に検討した。最終的に断念したが、諦めが付いたのは、既に二期会との共同制作が発表されていたので、「いずれ日本でもやるから、まあいいか」と思ったからである。
わざわざストラスブールまで観に行く検討を行ったのは、言うまでもなく宮本亞門氏が演出を担ったから。欧州の名門歌劇場で、オペラの頂点に君臨するワーグナー作品の演出を日本人が任され、手掛ける。これって単純にあり得ない、すごいことだと思ったのだ。

亞門さん自身も、その重責を強く意識したと思う。この作品から何が読み取れるのか、何を提示すべきかについて、徹底的に研究した跡が伺えた。
舞台を博物館(美術館)に設定したこと、母と子の黙役を置いたこと、その母と子をパルジファルとヘルツェライデ、あるいはパルジファルとクンドリーの関係に重ね合わせたこと、聖杯儀式の参加者を戦争で命を落とした戦士の亡霊に仕立てたこと・・・そうした読替えの一つ一つに、鋭く貫かれた裏付けと意味があった。そして、パルジファルの核心的なテーマである「救済」について、演出家としての最終回答を導き出した。これは本当に見事な解析であり結論だったと思う。

ところで、第三幕の前奏曲のシーンで、背景の紗幕に爆撃によって破壊された建物や街並みの映像を写していたが、これ、2020年のラン歌劇場のプレミエにもあったのだろうか。
もしそうだったとしたら、恐ろしいほどの先見、予言であろう。


歌手陣も大健闘だった。いつも二期会公演を聴いて印象を抱く「一生懸命頑張ってます」感はほとんど見られず、それぞれがワーグナーの歌唱を滔々と紡いでいたのは、素直に感嘆した。


ピットがヴァイグレ指揮の読響だったことも殊の外大きい。
ヴァイグレの仕事は、まさにカペルマイスターの趣。小細工を使わず、悠揚で骨太でどっしりした基盤を作り、絶対的な安定感で音楽を支える。さすがとしか言いようがない。


最後になるが、当初予定でティトレル役にキャスティングされていた長谷川頸のご冥福を心からお祈りする。