2022年6月12日 東京フィルハーモニー交響楽団 オーチャードホール
指揮 ミハイル・プレトニョフ
シチェドリン カルメン組曲
チャイコフスキー バレエ音楽「白鳥の湖」より(プレトニョフ編集版)
指揮者のこだわり、作品に寄せる思いが伝わってくるプログラムの構成。
存命中のロシアの作曲家シチェドリンの作品を、「生誕90年」という記念に引っ掛けて紹介。前半プロと後半プロを「バレエ音楽」という共通テーマで結び付けながら、白鳥の湖では、いわゆる名曲選集ではなくストーリー展開の流れに重きを置いたプレトニョフ版厳選組曲にする。
「カルメン」、「白鳥の湖」という誰もが知っているポピュラーな作品でありながら、耳馴染んだいつものとは少々雰囲気や趣きを変えつつ、さり気なくロシアの作曲家を誇示する。
このプログラムを決めたタイミングは、ロシアのウクライナ侵攻よりも前だったはず。
しかし、現状の世界情勢の真っ只中、もしかしたらプレトニョフの頭の中に「ロシアに対し複雑な感情があるにせよ、偉大な作曲家による偉大な作品は誰が何と言おうと不滅」という思いが浮かんだのではないだろうか。そんなプレトニョフのメッセージが聞こえた公演だ。
単なる思いだけでなく、きっちりとオーケストラをロシア音楽仕様にビルドアップさせて聴かせたのも、本公演の大きなポイントであり、プレトニョフの見事な貢献だ。
シチェドリンの演奏も面白かったが、やはりチャイコフスキーの重厚なサウンドに魅了された。
特に、金管楽器群の輝かしくも、どこか哀愁を帯びた懐かしい響き。
弦とのバランス面で若干問題が無かったわけではないが、それを補って余りあるほどの豊潤さ。
「これ、ロシアのオーケストラの響きだ!」
思わずそう感嘆してしまった。
現状では、ロシアの指揮者や演奏家を単身で招聘することは辛うじて出来たとしても、団体のオーケストラ来日公演を実現させることは、当分無理だろう。
世界のオーケストラがインターナショナル化し、平準化する中、ロシアのオケは今もなお独特の合奏サウンドを持つ。あのロシア訛りの音をもう聴けないのかと思うと少々寂しいが、この日の東京フィルは十分にそれを補ってくれた。