クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2022/3/13 東京フィル

2022年3月13日  東京フィルハーモニー交響楽団  オーチャードホール
指揮  ミハイル・プレトニョフ
スメタナ  わが祖国


3月1日から、政府による外国人入国制限が緩和となった。これで外国人の指揮者やソリストたちが再び日本のステージに立てるようになった。
この恩恵にあずかり、待望だった私の来日演奏家第1号は、なんとロシアからやって来た指揮者だった・・・。

どうなんだろう・・・彼の来日に対し複雑な感情を抱いた人は、果たしていたのだろうか。

「会場に行ってみたら、もしかして抗議の横断幕とかがあったりして・・」

いくらなんでも、さすがにそれはなかった。(そりゃそうだ)
それどころか、会場の雰囲気はまったく普段と変わらない。不穏な空気ゼロ。指揮者を迎える聴衆の拍手も温かい。「それとこれとは別問題」という割切派が多数を占めたからか。それとも、のどかで平和で脳天気なニッポンの象徴なのか・・。

しかも、演目が「わが祖国」というのだから、不謹慎とはいえ思わず笑ってしまう。
これが漫才だったら、「どの面下げてやるねん!?」というツッコミが入りそうだが、そこは真面目なクラシックコンサートですからね。
プログラムは、侵略が始まるずっと前から決まっていたのは、周知のとおり。しかもコロナの影響で一度は中止の憂き目に遭っている。ようやく実現にこじつけた演目なのである。
だから、私も「複雑な感情はひとまず置き、ここはプレトニョフのこの作品にかける意気込みを汲み取ろう」と思い直し、席に着く。

それでも、やっぱり勘ぐってしまう。
もしかしたら・・・たとえ表立って政治的な立場を問われなくても、何の声明も発表せずノーコメントだったとしても、内に秘めるプレトニョフ自身の思いというのがあり、それらが演奏を通じて語られるのではないか・・。

ところが、じっくり耳を傾けても、そうした感情的なものがほとんど聴こえてこない。

これは、ある意味意外なことであり、一方で、よくよく考えてみれば「まあそうかもな」と妙に納得することでもある。
これまでプレトニョフという指揮者を聴いてきて、彼の専心が「作品そのものを詳らかにする」ということであり、決して特別な感情を押し出して表情付けするタイプではないことを私は知っているからだ。
従って、演奏は極めてストレート。
ここで言うストレートというのは、何もしないということではない。作品を際立たせるためのオーケストラドライブを実直に行っていくというものだ。「ああしろ、こうしろ」と立ち止まって修正するのではなく、「あそこに向かっていけ」と案内するやり方だ。(もちろん、実際のリハのやり方、音楽の作り方は知る由もない。出てくる音楽から推測しているだけ。)
そういうわけなので、推進力があるし、音楽の中にきちんとピークが見つかるのである。これこそが、プレトニョフの強みと言っていいだろう。

興味深いのは、アンコールで演奏された「G線上のアリア」でさえも、その流儀が貫かれていたことだ。
いやさすがにG線上のアリアは、何らかの意図や感情があったでしょう。だからやったわけだよね。
彼なりの無言の反戦のメッセージかもしれないし、犠牲者の追悼かもしれない。
でもやっぱり聴こえてくるのは、G線上のアリア。

ちょっと不思議な指揮者、ミハイル・プレトニョフ