クラシック、オペラの粋を極める!

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2021/12/14 東京音楽大学シンフォニーオーケストラ

2021年12月14日   東京音楽大学シンフォニーオーケストラ   東京芸術劇場
指揮  ユベール・スダーン
モーツァルト  ディヴェルティメントニ長調
ヒンデミット  吹奏楽のための変ロ調
ブラームス  交響曲第2番


11月内に来日したことで、入国制限による締め出しを無事に免れたスダーン先生。そのおかげで、兵庫芸術文化センター管弦楽団に続き、またこうして大先生のタクトによる公演を聴くことが出来たのは、とても幸い。
スダーンはその間にも代役を引き受けて大阪フィルを指揮。更になんと年末まで滞在を延長し、愛知室内オーケストラとG・オピッツ共演の特別演奏会の代演指揮まで引き受けてしまった。
完全に救世主! ちょうど昨年のヴァイグレと同じような感じだね。

私自身、その救世主様様を何だか追っかけ回しているみたいだが、何を隠そう本公演に目を付けたきっかけは、「指揮者がスダーンだから」ではなかった。ぶっちゃけスダーンじゃなくても多分チケットを買ったと思う。(もちろん、「指揮がスダーン」というのが大きなポイントだったというのはある。)

本公演に駆けつけた目的は、ヒンデミットである。交響曲変ロ調。
高校生の時、ブラスバンド部でこの曲を演奏したことがあった。必死に練習し、この曲を引っ提げてコンクールに挑み、そして虚しく散った。思い出深い作品なのだ。
にも関わらず、実演で聴いたことはこれまでに皆無。
ヒンデミット作品自体がなかなか聴けないわけだが、その中でも更にレア。正直、本公演を逃したら次いつ聴くチャンスがあるか分からない。もしかしたら、もう二度と無いかもしれない。
私にとって、一期一会だったのだ。

そしてもう一つのポイント、東京音楽大学シンフォニーオーケストラ。通称Sオケ。その実力と程度についてである。

音大とは言えど、所詮彼らは学生団体。私が日ごろから追いかけ、お金を払っているプロオケではない。
で、私が日ごろから追いかけているプロオケというのは、音大の中でも更に優秀な成績で卒業し、厳しいオーディションを勝ち抜いてポジションを得た実力者集団だ。彼らは、技術的に上手いとかそういうことでなく、常に演奏の質と真価が問われている。
そういう意味で、「セミプロ」、「プロのタマゴ」の演奏にどれだけの商品価値があるのか、そこらへんは評価の分かれるところかもしれない。鑑賞のポイントとして、是非見極めておきたい。
(私は一度、別府アルゲリッチ音楽祭で、彼らの演奏を聴いているが・・)

先に結論を言うと、学生とはいえ、優秀な器楽演奏能力を持っている彼らの合奏は、十分に「The Classic」である。全体的にちょっと線が細い感じはするが、本格的な演奏を聴いた充実感は得られる。
それに、たとえアカデミーであっても、偉大なカリスマ指揮者の導きによって驚異的な演奏が生まれることを、我々はムーティ指揮の東京・春・祭特別オーケストラ公演で目のあたりにし、経験として知っている。ある意味東京音大生にとっては、スダーンはムーティに匹敵するカリスマ。ならば素晴らしい演奏は、約束されたようなものである。


一曲ずつ振り返ってみよう。
まずモーツァルト。いきなりこの一曲目でゾクゾクしてしまった。
合奏が一つの方向性にがっちりと導かれていたのだ。音楽性の統一が隅々まで図られ、一糸乱れぬアンサンブルで音楽を構築していく様は、見事と言うほかなかった。しかも、色彩的な表現力まで備わっている。
ああ、さすがスダーンだな、と感心した。

次、ヒンデミット
自分たちは高校生の時、こんなにも複雑で難しい曲にチャレンジしたのかという、今さらながらの驚嘆。
いや驚嘆とより、呆れたというか・・・。なんつうか、無茶というか無謀というか(笑)。

最後、ブラ2。
これも興味深かった。モーツァルトでは指揮者が絶大な統率力を発揮して音楽を引き出していたのに対し、ブラームスでは一転してオーケストラの自発的な音を求め、「あなたたちのブラームスとは一体何なのか」について、厳しく問い質していたのだ。
重要なのは、言われたとおりに弾くのではなく、自ら考えて表現すること。スダーンはそのことをタクトを通じて教示していたわけである。

本番に至るまで、どのような練習が行われたのかは知る由もない。
しかし、密度の濃いリハーサルが行われていたことが一目瞭然の本番だった。やっぱりスダーンは凄い先生だ。