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2013/4/21 東響

2013年4月21日  東京交響楽団   ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮  ユベール・スダーン
合唱  東響コーラス
ザビーナ・フォン・ヴァルター(ソプラノ)、ステファニー・イラーニ(メゾソプラノ)、福井敬(テノール)、パトリック・シンパー(バス)

モーツァルト  ミサ曲ハ短調「戴冠ミサ」、レクイエム


 震災による損壊の補修工事で長らく閉鎖していたミューザ川崎。私はステージをぐるっと取り囲むように座席が配列されたこのホールの雰囲気がとても好きだ。なので、このたび再オープンの運びとなったのは誠に喜ばしい。一時的に本拠の一つを失っていた東響にとっても、待ちに待った帰還であろう。ここに至るまでの関係者の大変な御尽力に心から敬意を表したい。

 さて、スダーンの東響音楽監督としての任期が、ついに来シーズン(2013-14)で終わりを迎えることとなった。
 在京プロオケにおける近年の動向で、デュトワN響やインバル&都響など、外国人指揮者と緊密で幸せな関係を築いた好例はいくつか挙げられるが、そんな中でも東響はスダーンとともに独自の音楽スタイルを確立させ、その成果が劇的に表れたという意味で、まさに最高の結晶ではないかと思う。

 私はスダーンの手腕に感服し、その音楽的魅力にハマった人間であるだけに、まだ一年先とはいえ、このまま終わりに向かってしまうのはとても寂しい。
 東響は氏に対し、「名誉指揮者」もしくは「桂冠指揮者」(既に秋山和慶氏がこの地位を得ている)などの栄誉ある称号を是非与えていただけないものか。音楽監督の職を辞した後も、年に1度でもいいから、定期的に来日してほしいと願うからだ。

 いずれにしても、任期満了までの一つ一つの公演が聞き逃せない貴重な機会。この日も期待に胸を膨らませて会場に向かい、その期待どおりの素晴らしい演奏を披露してくれた。

 スダーンのモーツァルトは、我々を驚嘆させたシューベルトの演奏と同様、過剰な装飾を削ぎ落した「しなやかな原点回帰」。特にレクイエムは、ベームカラヤンバーンスタインといった往年の巨匠たちが録音を残し、鎮魂歌ということで感傷的で咽び泣くような、なんとなくべトーっとした演奏がスタンダードのようになっているが、スダーンのアプローチはこれらとは対極をなす。
 いわゆるピリオド奏法だが、スダーンがこだわっているのはスタイルではなくて、あくまでも透明な響きである。特に合唱のフレージングとアーティキュレーションには細心の注意を払っていて、合唱と一緒に呼吸し、一緒に歌いながら、クリアなサウンドの構築を図っていた。

 合唱の東響コーラスは、それに対して見事に応えていた。出来栄えはとてもアマチュアとは思えない。しかも完全暗譜。相当の練習を積んだ成果であることが一目瞭然であった。

 指揮者、オケ、合唱、ソリスト、そしてリニューアルしたホール、もちろん作品そのもの、これら全てが最高の形で結実した感動的な公演だった。