クラシック、オペラの粋を極める!

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2021/3/4 読響

2021年3月4日   読売日本交響楽団   サントリーホール
指揮   山田和樹
鈴木康浩(ヴィオラ
ウェーベルン   パッサカリア
別宮貞雄   ヴィオラ協奏曲
グラズノフ   交響曲第5番


日本人覇者がどういうわけか次々と輩出され、我が国でもその名がよく知られているブザンソン国際指揮者コンクール。若手指揮者の登竜門の一つとされている。
だけど、優勝したからといってすぐに国際的なキャリア、世界の一流オーケストラを振ることができるほど甘い世界ではない、指揮者稼業。

そんな中、2009年の優勝後、順調に欧州でのキャリアをスタートさせ、スイス・ロマンド管、バーミンガム市響、モンテカルロ・フィル等でポストを得てきた山田和樹氏。そろそろ若手から中堅へのステップアップ期に差し掛かりながら、今後も更なる国際的活躍が期待される逸材の一人である。

・・・と持ち上げておいて誠にアレなのだが、何を隠そう私自身ヤマカズさんの才能、実力、手腕について、実はそれほど確信を持てていない。これまで、何だかよく分からないもどかしさを感じていた。

「その原因、理由は、たぶん、もしかしたら、あれじゃないか?」と内心思い当たることがあって、彼のタクトや統率ぶりに指揮者としてのオーラが感じられないのだ。風格、貫禄、威厳といったものが欠けているように見えるのである。

で、それは多分に「見た目」による印象である。
指揮者は見た目じゃない。(と言いつつ、見た目は大事だと思うが)
出てくる音をしっかりと聴きたい。
出てくる音を通じて、彼がどんなメッセージを発信しているのかを、探りたい。

今回の読響の3月公演シリーズ(ヤマカズ氏による4公演3プログラム)は、それを確認する絶好のチャンス。
ということで、私は3プロ全部行くことにした。
(単純に、プログラムが3つとも魅力的だったのが一番の理由だが)


まず、この日の定期公演。
シリーズ1回目に当たる本公演で、いきなり分かってしまった。
私には見えたのだ。この指揮者の本分が。タイプ、志向性、持ち味が。
ずっとモヤモヤしていたものが、ここでスッキリと解消された瞬間であった。

なるほどそうか、彼は「ガイド」なのであった。
作品を紐解き、堅い装いをほぐし、「こんなにいい曲なんですよ」と分かりやすく提示してくれる案内人なのであった。
つまり、彼の指揮者としての使命は、作品の魅力を存分に引き出し、それを余すところなく聴衆に届ける、ということなのだ。そんなわけだから、オーラ、風格、貫禄、威厳、必要がないのだ。

なぜこのように気が付いたか。
それは、一曲目のウェーベルンと二曲目の別宮のコンチェルトが、初めて聴いたにも関わらず、あたかも馴染みが深かったかのように非常に心地良く響いたからである。

現代曲に限らず、私にとって「初めて聴く曲」というのは鬼門である。いつもいつも居心地が悪い。
私の音楽的感性は、人見知りが激しい。だからこそ、予習は必須。何度も聴いて、様々な指揮者の演奏を聴いて、音楽を耳に染み込ませ、琴線を張る。
ところが、今回はそれを怠った。このため、前半プロはひたすら辛抱の時間だと思っていた。
それが、上記の感想「あたかも馴染みが深かったかのように非常に心地良く響いた」になったのだ。

もちろん、作品そのものの良さがあったのかもしれない。仮にそうだとしても、私はヤマカズさんのおかげ、指揮者の功績だと思いたい。


これで、残りの2公演もなんだか楽しみになってきた。
プログラムは、どれも私の耳に馴染んでいる名作である。これらの作品は、自分では既に十分に知っているつもり、分かっているつもり。
それでも、もしかしたら、ヤマカズさんが再び名ガイドぶりを発揮して、新たな一面を見せてくれるかもしれない。

そんな期待が膨らんできた。