2002年4月24日 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 フィルハーモニー
『クラウディオ・アバド 音楽監督退任記念コンサート』
指揮 クラウディオ・アバド
ワルトラウト・マイヤー(メゾ・ソプラノ)、エレナ・ツィトコーワ(メゾ・ソプラノ)、アナトーリ・コチェルガ(バス)
ブラームス 運命の歌
マーラー 5つの歌曲
ショスタコーヴィチ 映画音楽「リア王」
1998年、電撃のベルリン・フィル音楽監督退任発表。
2000年、これまた電撃の病気(胃癌)発表により、指揮活動の一時休止。
同年秋、闘病と療養の期間を経て、見事に復帰。
そしてついに2002年、音楽監督の契約満了。
アバドにとって、そしてベルリン・フィルにとって、1998年から2002年は、激動の4年間だったと思う。その時、世界のクラシック中心地で時代が動き、移ろうとしていた。
彼がベルリン・フィルの音楽監督を退任するというニュースを知った時、私は焦った。
「アバド&ベルリン・フィルなんて、いつでも聴けるチャンスがあるさ」なんて悠長に考えていたが、「物事には必ず終わりがある」ということに改めて気付かされたのだ。
「退任までに、できればベルリンでもう一度聴いておきたい。」
このファイナルコンサートを見つけたのは、まさにそうしたタイミングだった。これは大きな喜びだった。もしかしたら、そこでアバドのレガシーを見つけることが出来るかもしれない。
だから、このチャンスは逃すべきではないと強く思った。
だがそれにしても・・・である。
このプログラム! なんじゃこれ!?
またマニアックな・・・。
これで辞めるというの!? これがあなたの有終の美なの!?
もうまったくアバドくんったら、ひねくれ者なんだから・・。
それとも、これまで彼を容赦なく批判してきた評論家やアンチに対する当て付けみたいなもんか? 「これでも喰らえ!!」みたいな。
ショスタコ大好き人間の私でさえも、「リア王」には仰け反った。知らない作品だった。
慌ててCDを探したが、なかなか見つからない。
ようやく見つけ出し、旅立つ前に予習して本番のコンサートに臨んだら、何だか妙な違和感・・・。
後で知ったのだが、リア王には1940年に作曲した「劇付随音楽」と1970年に作曲した「映画音楽」の二つがあるんだってさ。
私が予習したCDは「劇付随音楽」、でコンサートのプログラムは「映画音楽」だったわけ。
もう本当にアバドくんったら、ひねくれ者なんだから・・。
ちなみに、ステージにはスクリーンが用意され、白黒映像による「リア王」ムービーを映し出し、そこに生演奏を充てていた。企画としては面白かったと思う。
たとえどんなプログラムであっても、どんな演奏であっても、この日会場に集った聴衆は指揮者にとことん優しい。演奏が終わるやいなや、皆一斉に起立。盛大なスタンディングオベーションが会場を包んだ。
そりゃそうだ、だってこれで最後なんだから。「お疲れ様でした」ってわけだ。
療養明けの復活アバドは、げっそり痩せ、頬がこけ、体が小さくなり、随分と老けてしまった。
そんな姿はかなりショッキングだったが、同時に、「なるほど、潮時というわけなんだな。」と理解した。
コンサート会場「フィルハーモニー」のロビーでは、アバドの功績を称え、ベルリン・フィルと共に過ごした12年間の軌跡を綴ったパネル写真展示会が開催されていた。
タイトルは「Danke Claudio Abbado !」 ありがとう、クラウディオ・アバド!
アバドとベルリン・フィルのコンビについては、必ずしも最高の結実をもたらさなかったという厳しい評価を下す人もいる。
だが私は、展示されている写真を一つ一つ眺めながら、「一時代を築いたんじゃないかなあ」としみじみ感じたのであった。