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アバド指揮ルツェルン祝祭管の「復活」

東京フィルと都響の「マラ2」公演が残念ながら中止になってしまったので、その代わりに2003年ルツェルン国際フェスティバルのライブ映像、クラウディオ・アバド指揮ルツェルン祝祭管弦楽団による「マラ2」を視聴した。

この映像を観るのは初めてじゃない。語り草となっている伝説公演の貴重なライブは、CDにもDVDにもなっているし、衛星放送などでも放映されている。

それでも改めて視聴して、目と耳が釘付けになってしまった。
映像から飛び出てくる演奏の音も凄いのだが、画面に現れるルツェルン祝祭管の面々、ステージ上に居並ぶ世界的奏者たちのなんと壮観なこと!
いやはや、なんですかこれは!! まさにオールスター級。

コンマスのコリヤ・ブラッハーを始め、E・パユ(fl)、A・マイヤー(ob)、S・ドール(hr)、G・ファウスト(vc)、W・クリスト(vla)、S・マイヤー(cl)といった新旧のベルリン・フィル首席たちが、各パートにがっちり配置されている。2nd Vnのトップ奏者も、名前は存じてないけど、この人も元ベルリン・フィルだな。見覚えがある。

それ以外にも、ルノー・カプソン(vn)、ラインホルト・フリードリヒ(tp)・・・ハーゲンQのメンバーも見える。

彼らは皆、「アバドと一緒に音楽をやりたい」という一心で集まったエリートたち。
前年にベルリン・フィル音楽監督を退任して、その後にルツェルン祝祭管の音楽監督就任が決まると、そこに多くのベルリン・フィルの精鋭たちが「我も」とばかりに馳せ参じた。その事実が、アバドに対する信望を物語っている。彼らはもっともっとアバドと一緒に音楽をやりたかったのだ。
退任を発表した時は色々な憶測や噂が飛び交った。だが、少なくともメンバーたちからは慕われ、惜別だったのだろう。

だからというわけではないが、オーケストラ奏者たちは皆、嬉しそうで、誇らしげで、実にいい表情をしている。で、全身全霊で音楽を奏でている。
これ、試しに音声をオフにして映像だけ見てみるといい。
音がなくても、音楽のうねりや抑揚の波、熱いほとばしりなどが手に取るように分かる。タクトへの感度はマックス。アバドと一緒に音楽をする喜びが溢れ出ていて、それがひしひしと伝わってくる熱演なのであった。

オーケストラの基礎母体がマーラー室内管ということで、オーボエのセカンド、あのA・マイヤーの隣で真剣な眼差しを指揮者に注ぎながら演奏しているのが、吉井瑞穂さん。彼女にとって、このステージ経験は何物にも代えがたい財産だろう。


それにしてもアバドベルリン・フィルを退任し、その翌年、音楽監督就任後初のお披露目公演のプログラムにマーラー交響曲第2番を持ってくるとは!
意味ありげ!? 何か込めてる??(笑)

大病を患い、さぞや大変だったであろうベルリン・フィル音楽監督を退任して、あとは余生をゆっくりくつろいで、気楽に音楽をやって過ごせばいいのに、「復活」だもんな。
ってことはなにかい? 反撃の狼煙ってことかい?

実際、指揮ぶりを見ていると、アバドの本気度が一目瞭然。普段は温和な人柄が滲み出るようなアバドだが、鬼気迫るようなタクトだった。これはオケも燃える。

そのアバドの演奏を聴いて、改めて思った。
マーラー交響曲第2番、復活、この曲は指揮者の生き様を語るのに相応しい。
ていうか、それくらいの執念を見せつけないと、この作品は輝かないような気がする。


「コロナのせいで公演が中止になったから、代わりに何か聴こう」みたいな気軽な気持ちで視聴したのだが、いざ聴き始めたら、アバドの壮絶な音楽家人生、指揮者魂を見せつけられて、思わずのめり込み、胸が熱くなってしまった。
いやー、すごいなあ。

ところで、会場にカメラが向けられると、そこには在りし日のマリス・ヤンソンスのお姿が・・・。
もうお二人とも鬼籍に入られているというのが、時代の移ろいを物語る。令和だもんな。