クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2019/11/22 ベルリン・フィル2

2019年11月22日   ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団   サントリーホール
指揮  ズービン・メータ
ブルックナー   交響曲第8番


実際に演奏した経験がある私にとって、ブルックナー交響曲第8番は特別な作品だ。
その特別な作品を、いつかベルリン・フィルウィーン・フィルの演奏で聴いてみたいと、ずっと思っていた。これは私の夢だった。
3年前、音楽監督退任を控えたラトルがこの作品を本拠地で振るということを知った時、私はベルリン行きを決断し、チケットを買った。にも関わらず、家庭の事情で旅行が中止になってしまい、夢が破れてしまった。

新たな時代を迎えた今年、あろうことか、その両方の演奏を立て続けに鑑賞するという、嘘のような信じられない機会が訪れた。

今年はクルレンツィス&ムジカ・エテルナ、ティーレマンウィーン国立歌劇場影のない女」、ペトレンコ&バイエルン州立歌劇場「サロメ」など、例年以上に記憶に残る公演に巡り会えたが、それでも、令和元年は「ウィーン・フィルベルリン・フィルで聴いたブルックナー交響曲第8番の年だった」と、将来振り返ることになるだろう。この体験は、私にとって生涯のご褒美であり、宝物であり、金字塔だ。

この日、メータの気迫は凄まじかった。エロイカで感じた円熟的な安定感は、微塵にも感じられなかった。自らのキャリアのすべてを賭けたと言ってもいいくらいの渾身のタクトだった。

そのことを証明する出来事が起きる。
最終楽章のコーダ、圧倒的なフィナーレに向かうところで、ずっと椅子に座って指揮していたメータは、まるで炎に飛び込むかのごとく勇ましく立ち上がると、猛然たる勢いで演奏を締めくくったのだ。

その瞬間、メータに神が宿った。集大成としてすべてを出し尽くそうとした指揮者を神が祝福した。

ソロ・カーテンコールで、メータは何度も手を合わせながらお辞儀をしていたが、聴衆に対する答礼であったと同時に、降臨してきた神へ感謝を捧げていたように、私は見えた。

それにしても、だ。
毎回思うことだが、ベルリン・フィルの驚嘆すべき合奏能力、いったい何なんだ!?
メータに神が宿ったと上に書いたが、ベルリン・フィルの演奏もこれまた神業なり。

ブルックナー作品特有の弦楽器のトレモロ。管楽器などの主旋律を下支えするこの伴奏型にも、奏者たちは魂を宿らせるかのように全力で弓を刻んでいる。
つまり、ベルリン・フィルの奏者たちにとって、音符とはかけがえのない命なのだ。この一音たりとも気を抜かない姿勢が、あの驚異的なアンサンブルを形成するのだ。

更に、管楽器の勇者たち、ドール、マイヤー、パユ、フックス。彼らは宝石箱の中でも更に一際輝きを放つ最高級ダイヤモンド。

こんなにもすごい人達が集まっているベルリン・フィル、反則だよなあ・・・。
でも、それこそが、すなわち、要するに、ベルリン・フィルってこと。燦然と輝く永久不滅のオーケストラ。