音楽の都ウィーン。憧れの街ウィーン。モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェン、マーラー・・偉大なる芸術家たちがここを拠点に据え、活躍したウィーン。
昔、彼らは確かにここを闊歩していた。そんな歴史ある石畳の路を歩けば、由緒ある伝統の息遣いが、私の傷心をみるみるうちに癒やしてくれる。ウィーンはどこまでも私の味方なのだ。
どうしても行ってみたい場所があった。何としても覗いてみたい施設があった。
楽友協会ホール、ムジークフェライン。
そのとおり。国立歌劇場と並び、ウィーンをウィーンたらしめる崇高な音楽の殿堂だ。世界の楽壇の頂点の場所でもある。
この時期はオフシーズンで、公演は何もやっていない。ウィーン・フィルはザルツブルクに出張中だ。
だからこそ、見学出来るチャンスがあるはず。私はそう思った。
事務室を訪ねた。出てきた係の人に尋ねた。
「我々は旅行者です。そして、クラシック音楽のファンです。お願いがあります。ホールの中を見せてもらえませんでしょうか?」
「ついていらっしゃい」
手招きして我々を連れて行ってくれたのは、数々の名演が繰り広げられている黄金ホールの間。
公演がないので、シャンデリアはひっそりと降ろされ、座席にはカバーシートが被され、まさに休館中の装いであった。しかし、そこにあったのは紛れもなく、世界中のクラシックファン憧れの名ホールだった。
「じゃ、あとはご自由にどうぞ」
そう言って係の人が自オフィスに戻って行ったその瞬間から、この聖なる空間は我ら二人の物となった。完全貸し切り、独占状態である。
舞い上がり、カメラを片手に、あっち行きこっち行き回る二人。
そして、ついにステージに駆け上がる。
ちょうど指揮台が置かれるあたりに二本の足を踏み入れる。
ここだ。この場所だ・・。
フルトヴェングラー、ベーム、カラヤン・・・伝説の巨匠たちが指揮棒を持って構えたであろうその場所。そこに、私はいま立っている。
全身に震えがきた。ヤ、ヤバい。ヤバすぎる!!
ということで、完全にカラヤンになった気分になり、後ろに居並ぶウィーン・フィル奏者たちを従えている(つもりの)オレ様の勇姿を見るがよい!!!
超ご満悦!!(笑)
すっかり立ち直り、機嫌がよくなった私。会社のことなんか、クソ上司のことなんか、もう忘れた。
ここに来て良かった。ウィーンに来て良かった。ムジークフェラインのステージに立ったことで(本来の意味とはちょっと違うけどな)、今回の旅行は見事に完結した。
夜。
最後の晩餐。老舗ホテルのレストランを予約。音楽祭の時と同じように身支度を整え、レストランに参上。優雅な料理をいただいて、フィナーレを締めくくった。