クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1988/8/21 ウィーン1

旅行もいよいよラスト。ついに、この日が来てしまった・・・。

せっかくの楽しい旅行なのに、密かに憂鬱なことがあった。ずっと心の奥底に気がかりを抱えたまま旅を続けていて、なるべく思い出さないようにしていたが、直面しなければならない日が、ついに訪れてしまった。

プロローグにも書いたとおり、今回の旅行は、会社で定められた夏季休暇期間を超過するため、追加であと2日の有給休暇申請が必要だった。確信犯で、私は会社に事前申請しなかった。なので、本日、これから職場の上司の自宅に国際電話をかけ、休みを願い出る。

はあぁぁ・・・。
分かっていたこととはいえ、覚悟をもって決めたこととはいえ、やっぱり気が重いや・・・。

まずは、最終滞在地であるウィーンを目指し、バード・イシュルを発った。
順調に走行し、もう少しでウィーンに入る頃かな、そろそろ市街地付近かな、そんな感じで車を走らせていた時だった。ふと進行方向右側に、公園らしき広大な敷地と歴史を感じさせる立派な建物が見えた。

「あれ? これもしかして、シェーンブルン宮殿じゃないの??」

ウィーンを代表する観光スポットの一つ、シェーンブルン宮殿。時間があれば行ってみたいとは思っていたが、まさか途中の通りがかりで見つけるとは・・・。偶然ではあったが、通りがかった以上は、寄っていくしかなかろう。

さっそく入場し、庭園を散歩。

奥の小高い丘にあるグロリエッテという建物にまで行き着き、そこの展望カフェでお茶をしながら、広大な敷地を見渡す。
整然と手入れされた花壇、鮮やかな黄色が眩しい宮殿の建物・・。壮観な光景だ。
ウィーンに来たんだなという大きな感慨が身を包んだ。

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(この時我々は、宮殿内見学をパスした。この後にウィーン旧市街の散策も控えているため、見学時間を端折ってしまったのである。ちなみに宮殿の見学は有料だが、庭園だけなら無料。)

シェーンブルン宮殿を後にし、ウィーン市中心部に入ってきた。
さすがはオーストリアの首都であり、人気観光都市。リンク通り内の旧市街は、車も人も混雑。狭い路地も多く、一方通行も多く、ホテルにたどり着くまでが一苦労。やたらとぐるぐる回りながら、なんとか到着、ようやくチェックイン。

そして、とうとう気が重かった「やるべきこと」をやる時がやってきた。

嘘の言い訳としては、とにかく飛行機のせいにする。ポーランド航空に罪をなすりつける。
帰国便がトラブルでキャンセルになってしまい、足止めを余儀なくされた。どうしようもないんです。ご迷惑かけます。本当にすみません・・・。

果たして上司はなんて言うだろうか・・。もしかして、「仕方がないな。了解したよ。無事に帰っておいで。」と優しく声をかけてくれる、なんてことはないだろうか。

ホテルの室内から電話をかけた。初めての国際電話。時差は7時間。日本ではちょうど日曜日の夜9時くらいのはずだ。
電話が繋がり、上司に事情を話した。電話口の向こうで、しばしの沈黙が流れる。やがて溜め息。不機嫌そうな声でこう言われた。

「とにかく、水曜日、出社してからだな。」

言葉にこそ発しなかったが、「何やってんだ?オマエ」みたいな不快感が電話口から伝わってきた。

この上司の冷淡な反応で、ここまでの楽しかった旅行気分は、一瞬にしてガラガラと崩壊した。
受話器を置くと、私は横にいたOくんに「ゴメン、少し時間をちょうだい。オレ、しばらく落ち込む。すぐに気を取り直すから、そしたらまた観光しよう。」と告げ、そのままベッドにバタンと倒れ込んだ。

くそったれめ。でも、こうなることは分かっていたさ。優しい言葉なんか、かけてくれるわけがない。
それを承知で旅行を決めたんだろ? 覚悟してたんだろ?
だったら切り替えろ。楽しい旅行を最後まで全うしろ。

ベッドにうずくまりながら、そうやって必死に自分に言い聞かせていた時間は、どれくらいだっただろう。10分くらいだろうか・・。
そうだ、いつまでも落ち込んでなんかいられない。とにかく自らを奮い立たせ、「よし、さあ、観光に出かけよう!」
私はムクッと起き上がった。


いったんここまでにして、続く。