2013年11月10日 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 サントリーホール
古今東西で究極のシンフォニーと呼ばれるベートーヴェンの5番。日本で、世界で、これまでも数多の名演が繰り広げられてきた。コンサートに通う愛好家一人一人に「◯◯の第5が最高だった」とうメモリーがきっとあるに違いない。
私自身の最高のベト5は、今回によって塗り替えられた。細かいミスなんかどうでもいい。他の人がどう思おうが関係ない。昨日の演奏は私にとっては空前だった。果たして今後の人生において、これ以上のベト5体験を味わうことが出来るのだろうか?
骨太で雄渾なフォルテシモ。緻密でデリケートなピアニシモ。このコントラストこそが彼のベートーヴェンの生命線と言っていい。このため、快活なところではこれでもかというくらいに煽り、抑えるところは徹底的に抑える。
もちろん腕は振る。だが、腕の振りはあくまでも音楽を動かし、活性化させるための動作。拍子を取るためでも、出だしの合図を送るためでもない。だから、音楽を静止させたい場合は、本当に手の動きを止めてしまう。すると、そこに信じられないような奇跡の静穏が訪れる。
ウィーン・フィルとの相性も抜群。既にこれまでの共演やレコーディングなどによって信頼関係は揺るぎがなく、その掛け合いは絶妙だ。
ところで、である。
とまずは称賛した上で、実は気が付いたことがあるので指摘したい。
ウィーン・フィルの音色が、どうも以前に比べて少し変化しているような気がしてならない。やや固くなった印象を受けるのだ。
「ベートーヴェンだから」「ティーレマンの指揮だから」などとも言えそうだが、実は先月にムジークフェラインでブロムシュテットの指揮で聴いたブルックナーも同じような印象を持った。そもそもウィーン・フィルは、誰が指揮をしようと自分たちの音色を貫き通す頑固なオーケストラなはずだ。
若いメンバーが入ってきて、過渡期に突入しているのであろうか。
別に以前に比べて劣ってきたなどと言うつもりもないし、やっぱり気のせいかもしれないので、もう少し様子を見てみようとは思う。