クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1988/8/19 ザルツブルク

ザルツブルクに到着。さっそく市内へ繰り出そう。

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実はルツェルンもそうだったのだが、ここザルツでも、街中のいたる所に、音楽祭に出演する指揮者、ピアニスト、歌手などのポスターやパネルが掲げられていた。公演会場付近だけでなく、普通の何気ないお店のショーウィンドウケースの中にも。クラシック音楽のアーティストの写真が街を飾っているのである。

これらは音楽祭公演の告知ではない。
アーティストと契約するレコード会社(当時お馴染みだったグラモフォン、デッカ、EMI、CBSソニーなど)が、CDなどの販売戦略の一環として行う広告宣伝、プロモーション活動である。
だが、これによってフェスティバルの雰囲気が一層醸し出され、音楽祭がますます沸き立つという相乗効果が生まれていた。

音楽ファンとしては、一流演奏家たちがそこら中に溢れていて、散策が楽しくて仕方がないし、この旅行で収めたアルバムの中に、アーティストのポスターと一緒に記念撮影に興じる自分の写真が何枚も残されている。

残念なことに、近年、このような傾向はすっかり影を潜めてしまった。
今、音楽祭期間中にザルツブルクルツェルンを訪れても、こうしたポスターやパネルを目にすることは、まずない。
それはつまり、クラシックのみならず、レコード産業全体が完全なる低迷に陥っていることの如実の表れである。寂しい限りだ。


モーツァルト広場の一角に、チケット販売所があった。(音楽祭のオフィシャルショップではなかった。)
観光も重要だが、ザルツブルクに来たからには、音楽鑑賞はマスト。なんと言っても、今ここで音楽祭を絶賛開催中なのだから。

店内に入り、まずは今晩何をやっているかリサーチ。
祝祭小劇場(現在のハウス・ヒュア・モーツァルト)で、オーストリア放送交響楽団(現在のウィーン放送交響楽団)のコンサートが催されるという。
現代作曲家ルトスワフスキが作曲した作品を自ら指揮する自作自演コンサート。ソリストとして、世界的名手アンネ・ゾフィー・ムターとクリスティアン・ツィメルマンの二人が出演する。チケットは「ある」とのこと。

ルトスワフスキの作品ははっきり言って馴染みがないが、ソリストは豪華で素晴らしい。ムターとツェイメルマンの二人を一公演で聴けるなんて、かなり贅沢。さすがはザルツ。よし、それ聴こう!

チケットを購入。
以上で私としては用が済んだつもり。また観光を続行しようと思った。
ところが、Oくん、店内にあった音楽祭スケジュールカレンダーを眺め、とあるコンサートを目ざとく発見した。
なんと、天下のウィーン・フィル公演だ。
明日の午前11時開演。指揮者は、我らが小澤征爾

「ほら、明日、ウィーン・フィルのコンサートがあるよ!」
Oくん、色めき立って声を上げる。

私はというと、すぐに飛び付かない。
ウィーン・フィルのコンサートと言えば、ザルツブルク音楽祭の華、ハイライトの一つだ。こんな飛び込みで、あっさり簡単に入手できるわけがないでしょう。だから素っ気ない返事をした。
「いやー、どうせ売り切れなんじゃないの??」

「オレ、聞いてみる。」
再びチケットカウンターに向かったOくん、係の人と話をし、すぐにこっちを向いて言った。
「チケット、あるってよ!」

「え!? あるの!? ホントに!?」
ここでようやく、私も目の色が変わる。へえー、ウィーン・フィルのチケットって、売れ残っているものなんだ。

だが、演奏曲目を見て、ビビった。
オネゲルの作品だ。知らない曲。「ジャンヌ・ダルクうんたらかんたら」って書いてある。(※1) 全然わからん。
うーーむ・・。参った。

更に、明日の朝、予定ではすぐにザルツブルクを発ち、近郊の湖水地方ザルツカンマーグートをドライブするつもりであることも悩ましかった。午前11時開演のコンサートを鑑賞すると、計画がズレてしまう・・・。

しかし、気持ちは公演の方へとどんどんと傾いていく。
そりゃそうだわい。やっぱり「ザルツブルク音楽祭で、小澤征爾指揮のウィーン・フィルのコンサートを聴く」という魅力に抗うことなんて、どだい無理なんだよな。当時、このコンビによるコンサートは、まだ日本で実現していないし・・(※2)。
ならば、これは日本人にとって「ドリーム・コンサート」と言っても過言ではないだろう。

よし決めた。チケット買おう! オネゲル、聴いてみよう!

(※1:オラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」。今だったら、滅多に聴けない大作、飛び上がって喜ぶけどね。ちなみにこの当時、私が知っていたオネゲル作品は「パシフィック231」たったの1曲のみだった。)
(※2:日本でこのコンビによるコンサートが、5年後に実現した。)

それにしても小澤征爾、この年の夏、ルツェルンではベルリン・フィルを振り、ザルツブルクではウィーン・フィルを振る・・・。
この一人の日本人の世界的な活躍、アメージングとしか言いようがない。