クラシック、オペラの粋を極める!

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ハイティンク

90歳の大巨匠ベルナルド・ハイティンクが引退する。
ラスト公演は今月のルツェルン音楽祭とのことだが、ザルツブルク音楽祭の最終日、お別れ公演シリーズの一環としてウィーン・フィルを振った演奏が、NHK-BS4Kで生中継された。

ハイティンクは、本当はもう少し振れないこともないが、老いぼれと言われないうちに潔く身を引きたいこと、最後は自分にとって特別なオーケストラであるウィーン・フィルと演奏して終えたかったこと、などをインタビューで語っていた。
プログラムはベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(ピアノ:E・アックス-M・ペライアの代演)、ブルックナー交響曲第7番である。

ブルックナー交響曲第7番・・・。そうか、ハイティンクは最後にこの曲を選んだか。

毎年のように来日して素晴らしい演奏を聴かせてくれるウィーン・フィルだが、日本公演ではたったの1度しか共演がない。
1997年10月。この時、3つのプログラムを披露したうちの一つのメイン曲が、ブル7だった。

今でこそ毎年100回くらいコンサートやオペラに足を運ぶ私だが、この当時私は仕事がめちゃくちゃ忙しく、またプライベート面でも色々あって、コンサート通いが少し遠のいていた時期だった。
それでも、このハイティンクが指揮するウィーン・フィル公演だけは頑張ってチケットを取り、会場に駆けつけた。

それが、実に神々しく、崇高かつ包容力のある演奏で、猛烈に感動し、忘れられないコンサートの一つになっている。

その後、シュターツカペレ・ドレスデン、シカゴ響、ロンドン響と一緒に来た時の演奏も聴いているが、鮮烈な記憶を残しているのはやっぱりウィーン・フィルだ。
そういうことなので、彼が「特別なオーケストラとして、ウィーン・フィルと演奏して最後を終えたかった」というのは、個人的に大いに理解できる。

 

ところで、ハイティンクがどういう指揮者であるかについて、ハイティンクブルックナーについて、2013年3月のロンドン響来日公演の際、私はブログ記事に書いている。
引退のニュースに接した今、ここに改めて再掲してみたい。

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「どの作曲家であっても、奇を衒わず、作品に誠実に向き合い、素材そのものの良さを最大限に引き立たせるアプローチ。これがハイティンクの音楽であり、パーソナリティだ。
そんなハイティンクにもっとも相応しい音楽がブルックナーではないかと私は思う。

世界ナンバーワンの指揮者にハイティンクの名を挙げる人はそう多くはいないだろう。カリスマ指揮者として常にスポットライトを浴びて来たとは言い難い。
だが、長年にわたり、地道に、愚直なまでにこの流儀にこだわり続けた結果として、今や誰もが認める巨匠となった。

そのような生き様が、どこかブルックナーと相通じるものがあるような気がしてならないと思うのは私だけだろうか。」

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ザルツブルク音楽祭公演の演奏に話を戻すと、演奏後の万雷の拍手喝采に応えるハイティンクの表情は、実に穏やかなものだった。自らの音楽人生に一片の悔い無しということなのだろう。

だがそれにしても、一通りのカーテンコールを終え、オーケストラ奏者たちが立ち上がってステージから去っていくと、それまで熱烈だった拍手があっという間に終わってしまう会場の呆気なさに、びっくり。(たった一人だけ、根性で拍手を続ける猛者がいたが、連鎖は起きなかった。)
日本ではちょっと考えられない現象。さすが、愛好家よりもセレブが集う音楽祭。