クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2019/12/14 J・D・フローレス リサイタル

2019年12月14日   ファン・ディエゴ・フローレス リサイタル   サントリーホール
指揮  クリストファー・フランクリン
管弦楽  Tokyo 21c Philharmonic
ロッシーニ  「さらば、ウィーンの人々よ」、「ボレロ」
ドニゼッティ  愛の妙薬より「人知れぬ涙」、ランメルモールのルチアより「わが祖先の墓よ……やがてこの世に別れを告げよう」
ヴェルディ  椿姫より「あの人から遠く離れて…燃える心を…おお、なんたる恥辱」
レハール  微笑みの国より「君はわが心のすべて」、パガニーニより「女性へのキスは喜んで」
マスネ  マノンより「消え去れ、やさしい面影よ」
プッチーニ  ラ・ボエームより「冷たい手を」     他


20代半ばで頭角を現し、彗星のごとく世界の舞台に登場したと思ったら、あっという間に「世紀のテノール」「オペラ界のスーパースター」「キング・オブ・ハイD」などと呼ばれ、世界を席巻してきたフローレス
2006年ボローニャ市立歌劇場来日公演「連隊の娘」では、圧巻の高音パフォーマンスで聴衆を完全ノックアウト。これぞ「世界最高」という実力を見せつけた。熱狂した日本の聴衆は、「世の中にはこんなにもすごい歌手がいるんだ」と舌を巻いたのだった。

あれから13年経った。
13年も経ってしまった、という言い方が正しいだろう。
ペーザロ音楽祭の看板歌手で、ロッシーニ歌いの申し子だったフローレスだが、今回のプログラムでは、そのロッシーニの作品は、単なる前菜でしかない。
代わりに、マスネやヴェルディなどが主要を占めるようになった。リリコ・レッジェーロからリリコ・スピントへ。年齢とともに少しずつ移行しながら、着実にキャリアの成長を遂げている。

本当は、もう少し、移行する前に、ロッシーニの超絶アリアを日本のファンに披露してほしかったと思う。もう少し来日してくれたら、と残念に思う。
しかし、そうしている間にも年月は過ぎ去っていく。そして、「あの頃」はもう戻らないのだ。

それでも、今回「今のフローレス」を聴けたことを、大いに喜ぼう。
「あの頃」と比較しても仕方がない。今も昔も、フローレスフローレス
輝かしい声はいささかも衰えておらず、健在。テクニックも相変わらず縦横無尽。ヴェルディ、マスネ、プッチーニなどやや重めの役のアリアでは、役に寄り添い、感情を大切に扱って、より心を込めて歌うようにしている。
こうした作品を歌うにあたり、もっとも大切なアプローチだ。

各アリアの熱唱のごとに、それこそ一曲目から、会場から盛んなブラヴォーが飛ぶ。日本のお客さんは13年も待ち侘びたのだ。今回の来日は待望だったのだ。
会場の熱気から、そのことがすごく伝わってくる。

そして、思う。
ピアニスト、ヴァイオリニスト、器楽奏者、管楽器奏者、あるいは指揮者を加えても、これだけ一曲ごとに熱い喝采が繰り返され、これだけ聴衆の心を掴み、熱狂させることができるのは、歌手がイチバンじゃないだろうか。
それは、すなわち人間の声の魅力に他ならない。人間の声のすごさ。そして素晴らしさ。
それを改めて認識させてくれたフローレス

アンコールは、さながら「フローレス劇場」。
自らギターを演奏しながらのスペイン語の歌、「グラナダ」の熱唱、そしてテノール・リサイタルの定番である決めセリフ「誰も寝てはならぬ」で、止め刺し。
聴衆は全員立ち上がり、フローレスに手を振っている。みんな「ありがとう!!」と心の中で叫んでいる。

人の心をかようにも揺さぶり、感動させ、涙させ、「よし、明日からまた頑張ろう!」と前向きな気持にさせる。大勢のマインドを操ることを許された、選ばれし男フローレス
あんた、やっぱり神だね。