2009年6月21日 ボリショイオペラ NHKホール
チャイコフスキー スペードの女王
指揮 ミハイル・プレトニョフ
演出 ワレリー・フォーキン
ウラディーミル・ガルージン(ゲルマン)、ワシリー・ラデューク(エレツキー)、エレーナ・ポポフスカヤ(リーザ)、アンナ・ヴィクトロワ(ポリーナ)、エレーナ・オブラスツォワ(伯爵夫人)他
“かつての名門ボリショイは、果たして再び栄光を取り戻したのか?!”
興味はこの一点だ。
30年前はおそらく世界の5大歌劇場の一つであっただろうボリショイ。ソ連の崩壊とともにいったんは地に落ちた。
経済の低迷、有力音楽家の西側流出など、原因はいろいろあったのだろう。だが、その一方でStペテルブルグ・マリインスキー劇場は、彗星のごとく登場したゲルギエフと共に若手のM・グレギーナ、G・ゴルチャコワ、O・ボロディナ、そしてA・ネトレプコらを世に登場させて超一流歌劇場の仲間入りを果たしている。ボリショイは「頑張りが足りなかった」と言われても仕方があるまい。
しばらく来日が無かったが、再び上昇気流を得て、今回十八番のチャイコフスキー2本を引っ提げてきた。まずはスペードの女王からお手並み拝見だ。
歌手陣には唸った。
「ゲルマン」と言えばこの人ガルージンであるが、絶好調だった。声はパワーに満ち溢れ、狂気に晒されて墜ちていく演技は圧巻の一言。リーザのポポフスカヤ、ポリーナのヴィクトロワも良い。そして大御所オブラスツォワは・・・怖い(笑)。もし私がゲルマンで秘密のカードを聞き出そうとしてオブラスツォワ演じる伯爵夫人に対峙したら、「どうも失っっ礼いたしましたっ」って退散するね。
演出。
白黒のモノトーン調と簡素な舞台装置はシンプルで美しく、照明の転換でシルエットを作ったり、クローズアップさせたりといったやり方は一定の効果があったと思う。
だが、何となくどこかで観たことがあるかのような「いかにも」な手法だ。
これが、例えばフランクフルトだとかチューリッヒだとかブリュッセルだとかで上演されているプロダクションだと言われても全く違和感がない。古き良き時代のロシアっぽさは皆無だ。ボリショイは復興をかけ、伝統を捨てたとまでは言わないが、西側の洗練された手法を手に入れたのだ。使い勝手の悪い老建物を取り壊し、近代的なインテリジェントビルディングを建てたのだ。
“かつての名門ボリショイは、果たして再び栄光を取り戻したのか?!”
いや、とりあえず結論はもう一つ見終わるまで待つこととしよう。