クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

大野和士のウェルテル

 11月に予定されている大野和士・リヨン歌劇場来日公演の発売が間近に迫り、タイミング良くちょうどリヨンでの現地鑑賞記をアップしたことから、ここで一昨年にベルギー・ブリュッセルで同じく現地鑑賞したウェルテルの報告をしようと思う。秋の来日公演のちょっとした‘お薦め’投稿として、チケット購入を迷っている方の背中を押せれば幸い。


2007年12月20日 ベルギー・ブリュッセル王立劇場(モネ劇場)
マスネ ウェルテル
指揮 大野和士
演出 ギイ・ヨーステン
アンドリュー・リチャーズ(ウェルテル)、ソフィー・コッシュ(シャルロッテ)、ジャン・フランソワ・ラポワント(アルベール)、ヘンドリッキェ・ファン・ケルクホフ(ゾフィー)他


 このモネのプロダクションでは、一般的にテノールが歌うウェルテル役を、テノールバリトンの2バージョンで上演したことが大きな特色。バージョンを交互に変えながらダブルキャストを組んでほとんど連日のように上演されていた。

 私が見たのは、テノールバージョン。バリトンバージョンはそうでなくても珍しい上に、ルドヴィック・テジエという人気歌手が歌っていたので、本当のことを言うとそちらにしたかったが、残念ながら旅行の計画がうまく合わなかった。

 公演は本当に素晴らしく、感動したが、その最大の功績はもちろん指揮者大野和士が仕上げた極上の音楽づくりにあった。

 マスネの音楽は結構砂糖が入っていて、とてもロマンチック。美しいアリアや甘美なメロディーの部分で、たいていの指揮者は、音楽の進行管理を歌手や音楽自体に委ねてしまい、ゆるゆるのタクトになりがち。
 ところが、大野さんはそういう場面でも常に弛緩しないようにキビキビとしたタクトで引き締め、全体のバランスに気を遣っていた。
 結果として、音楽が登場人物の苦悩にまでたどり着き、作品の本質が何であるかを見事に捉えていた。

 さて、秋の日本公演はオペラ上演形式ではなく、コンサート形式。オペラでないのは残念といえば残念。
 だが、ウェルテルの台本は、偉大なゲーテの戯曲であるにもかかわらず、要するに「婚約している女性にフラれた男が絶望して自殺する」というくだらない内容(スマン)で、ヘタをすると安っぽいメロドラマに成り下がってしまう。
 だったらコンサート形式上演はいいかもしれない。上記のように、演出が無くても音楽で十分に登場人物の三角関係をくっきりと浮上させてくれるのだから。

 モネ劇場でやり、リヨンとの凱旋来日公演でも再びウェルテルを採り上げるということは、大野さん自身相当この曲が好きなのか、あるいは自信があるのに違いない。その確信に満ちたウェルテル、必見必聴だ。