2008年12月7日 新国立劇場
モーツァルト作曲 ドン・ジョヴァンニ
指揮 コンスタンティン・トリンクス
演出 グリシャ・アサガロフ
ルチオ・ガッロ(ドン・ジョヴァンニ)、アンドレア・コンチェッティ(レポレッロ)、エレーナ・モシュク(ドンナ・アンナ)、ホアン・ホセ・ロペラ(ドン・オッターヴィオ)、アガ・ミコライ(ドンナ・エルヴィーラ)他
手堅くまとまった好演。
歌手の水準がつぶ揃い。誰一人飛び抜けたり、ずり落ちたりせず、全体としてぴったりと枠にはまっている。まさに隙のない演奏。良質のアンサンブル。
エレーナ・モシュクの透明ではあるが軽い声はドンナ・アンナの役には向かないのでは、との事前予想は完全にハズレ。良い意味で期待を裏切ってくれ、彼女を見直しました。
演出も良かったです。とてもシックで格調のある舞台。ステージを大きく使ってスケール感を出しつつ、押しつけがましさも無し。第一幕の場所をヴェネチアに設定したのもアイデアとして面白いし、象徴のアイテムを並べて観客の想像力を掻き立てたのも良かった。
演出家はドン・ジョヴァンニを、単なる悪者として描かなかった。良くも悪くも存在感があって惹き付けられる「悪の魅力」を持ち合わせた人物として描いた。
そりゃ父親を殺されたドンナ・アンナにしてみれば、憎き男だろう。だが、それ以外のレポレッロやドンナ・エルヴィーラなどが、ドン・ジョヴァンニが地獄に落ちた後、まるでぽっかりと心に穴が空いたかのように放心状態となりながら彼のゆかりの品々を手に取っていた。
最後、レポレッロが例のカタログを開いたところで幕を降ろしたのも、「死んでも、ドン・ジョヴァンニという破天荒な人間が存在したことはカタログを通して記録として残る」というメッセージだと思う。演出家の秀逸な解釈だ。
それから、チェスの駒のオブジェについて。
一緒に行った友人から「あれってなあに?」と聞かれたので、私なりの解釈を講じた。
あれは女性を次々と物にしていくドン・ジョヴァンニの攻めの姿勢と戦略の象徴をチェスの駒に見立てたのだと思う。あくまで私の解釈だが、そんなとこではなかろうか?
永く残しても色褪せない正統派プロダクションだ。きっと再演されるよ。