
2025年7月22日 ベルリン州立歌劇場
R・シュトラウス 無口な女
指揮 クリスティアン・ティーレマン
演出 ヤン・フィリップ・グローガー
ペーター・ローゼ(モロズス卿)、ザムエル・ハッセルホーン(理髪師)、ブレンダ・ラエ(アミンタ)、イリス・フェルミリオン(女中)、シヤボンガ・マクンゴ(ヘンリー) 他
2024年シーズンから、つまり昨年9月から、ベルリン州立歌劇場GMD(音楽総監督)としての契約をスタートさせたC・ティーレマン。
しかし、その後シュターツカペレ・ベルリンは振ったものの、オペラに関してはシーズン終盤の7月まで登場を待たなければならなかった。
ようやく迎えたオペラのお披露目。その記念すべき一発目の演目が、R・シュトラウスの「無口な女」新演出だ。
渋ぃ~。最初が「無口」だなんて、マジ渋ぃ~。
挨拶代わりの打ち上げ花火というのなら、むしろ2025年新シーズンの9月から上演される「指環」チクルスなのかもしれない。こちらは狙いどおり大きな話題となり、チケットはあっという間に売り切れたそう。
まあそっちの方が確かにティーレマンっぽいと言えるわなー。
でも私は「無口な女」と知った瞬間、ベルリン行きを即決した。私にとっては、シュトラウスのレア演目の方が遥かに魅力的。「よくぞこれを選んでくれました」って感じ。
「ばらの騎士」、「サロメ」、「エレクトラ」、「ナクソス島のアリアドネ」、「影のない女」・・・・どれも20回以上鑑賞している私だが、「無口な女」はこれまでにたったの1回しかないのだから。
(自慢のつもりは毛頭ないけど、自慢に聞こえちゃったら、ごめんちゃい)
ということで、まずはやはりそのティーレマンが紡いだ音楽について語ろう。
どちらかというと、どっしりと構えつつ力強い推進力を武器にする指揮者だが、作品が軽妙洒脱な喜劇だけあって、あまり腕を振り回さず、きめ細かにタクト(棒)で指揮をしている。
となれば、出てくる音も当然そのように繊細かつ精妙。ピット内のオーケストラの音は粒立ち、しかも南国ビーチの砂ようなサラサラ感。シュトラウスがわざと雑然・騒々しい音楽を仕掛けている部分でも、どこか整然としていて、まるで鼻歌を歌うかのように涼やか。
シュトラウスは「どんな場面も音符で描写出来る」と自身の作曲技法を豪語したらしいが、ティーレマンもまた「どんな音楽も対応出来る」という幅広さ・懐の深さをさり気なく誇示。
「やるな、ティーレマン」って感じで、聴いていて思わずニヤニヤしてしまった。
と同時に、「そうか、だから『無口な女』なのか」と大いに納得。
新しく就任したからといって、今さら大見得を切り、ガツンとかます必要はない。それよりも、マイナー作品にスポットライトを当てる余裕を見せつけ、「こういう曲だってお手の物」とばかりに、シュトラウスに対する絶対的自信をアピールする。
したたかに戦略を立ててきたな、ティーレマン(笑)。
グローガーによる新演出プロダクションは、現代読替え。だが、物語・筋立てを大きく変えることはなく、真っ当な組立。理髪師が御抱えの整体師、イタリアン・コミックオペラ一座が現代のエンタメ興行カンパニーといった具合に置き換えられているが、観客が混乱することはない。
理髪師(整体師)がモロズスに結婚を勧める際、スマホのマッチングアプリを開け、沢山の女性プロフィールを見せつける、というシーンには思わず笑ってしまった。現代の世界共通アイテムなんだな、これ。
とにかくどの場面でも登場人物の動きがとても細かく、緻密に振付をしていたのには感心。まさに演劇。衣装もカラフルで、舞台がポップ。演出家グローガー、良い仕事をしました。
歌手では、ヘンリー役のマクンゴがいい。声そのものが朗々として溌剌。発音も明晰。有色系・ぽっちゃり体型といった見かけの部分で、もしかしたら損をしているかもしれないが、それを補って余りある豊かな才能の持ち主だ。
モロズス卿役のローゼも、ベテランらしい味のある演技と歌唱が絶品。
元々が声を張り上げるタイプではない。語り口で聴かせる。それがシュトラウスが書いたモロズス卿の旋律にぴったりとハマっている。
アミンタ役のラエは、透明感のある声質と役者のような演技力が魅力。自慢のコロラトゥーラ技術もしっかりと披露したが、舞台を制圧し、聴衆の心を完全に射抜いたかどうかはちょっと分からない。
「魔笛」の夜の女王、「ナクソス島のアリアドネ」のツェルビネッタなどを持ち役とする貴重なコロラトゥーラ歌手であることは間違いないが、今ひとつ世界での評価が確立されていない気がするのは、単に私の情報認識が薄弱なだけなのか・・・。
いずれにしても、ベルリンで、音楽監督の指揮で、大好きなシュトラウスのレア演目を鑑賞出来たことは、またと無い貴重な体験だった。
今回の旅行は、本公演の鑑賞をもってすべて終了。翌日帰国。充実した旅行だった。連載にお付き合いくださり、ありがとうございました。
一日の出来事に対し、基本的に2本の記事(日中の観光と夜の公演)。それを一日一つずつ更新していくため、どんどんと日にちが離れていく(笑)。日本に帰ってきたのが7月24日なのに、旅行記が完成したのは8月3日。何だかもう、随分と前の出来事のよう・・。
日本は暑いね。