2026年3月5日 花房晴美 室内楽シリーズ Vol.2 東京文化会館小ホール
『パリ・音色の世界』
花房晴美(ピアノ)、竹澤恭子(ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、横坂源(チェロ)、加藤雄太(コントラバス)
ラヴェル ピアノ三重奏曲
メンデルスゾーン ピアノ三重奏曲第1番
シューベルト ピアノ五重奏曲 ます
本公演に行こうと思った動機としては、何を隠そう「出演アーティスト」ではなくて「演奏される曲」だった。「花房晴美という名ピアニストによる室内楽」というのがコンサートのタイトルだが、私としてはプログラムの方に魅力を感じてチケットを買った。このプログラムなら演奏者が花房晴美でなくてもコンサートに行ったであろうし、逆に言えば、別のプログラムならコンサートに行かなかった。失礼なことを申し上げてしまい、ゴメン。
行く前のきっかけはそういうことだったが、実際に会場で聴けば、アーティストの素晴らしい演奏に思わず魅了される。なんだかんだ言っても、コンサートってそういう部分がある。
演奏者は作品や作曲家に寄せる思いを演奏の中に込める。それを聴衆に伝達するために、集中し、魂を込めて演奏する。惹きつけられて当然だ。それこそがアーティストのアーティストたる所以であろうし、生演奏の魅力であり、彼らの実力の程ということだろう。
花房晴美さん。来年がデビュー50周年なのだという。もう大ベテランだ。
決して何度も聴いているピアニストではないが、以前に聴いた感想として、パッションがあり、音色には火花がパッと飛び散るかのような鮮烈な輝きと煌めきがある、という印象が残っている。
今回久しぶりに彼女の演奏を聴いて、そうしたスタイル、ピアニズムが今もしっかりと残っていることに感動した。年令による衰えやベテランぽい古風な落ち着きは見られず、鍵盤のタッチは相変わらず瑞々しい。
また、形式的には室内楽の座長だったと思うが、決して出しゃばらず、メンバーとして参加した実力派揃いの奏者たちを音楽面でさりげなくリードし、引き立てていたのも好印象だ。
ところで、上で「プログラムに魅力を感じた」と書いたが、私はこの日の1曲目、ラヴェルの作品が好きだ。
今でこそR・シュトラウスやショスタコーヴィチなどの近現代の華麗なるオーケストラサウンドが好きだが、学生の頃、私はラヴェルやドビュッシーのピアノ作品や室内楽作品に結構ハマっていた。ラヴェルのトリオを聴くと、昔のあの頃を思い出し、懐かしさを覚える。
それから、ピアノ・トリオというジャンルが、とても面白く興味深いと思う。
例えば「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」だと、どうしてもヴァイオリンが主でピアノが伴奏、みたいな構図が目に付いてしまう。
これがヴァイオリン、チェロ、ピアノというトライアルを構成した瞬間、比重が均等に三分され、絶妙のバランス感覚が生じるのだ。実にミステリアスであり、魅惑的である。