2024年5月24日 シュターツカペレ・ドレスデン シャンゼリゼ劇場
指揮 マリー・ジャコ
R・シュトラウス 交響詩ドンファン、交響詩ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら
ブラームス 交響曲第4番
当初予定の指揮者は、言わずと知れた、あのティーレマンだった・・・。
彼は今シーズンいっぱいをもってドレスデンにおける首席指揮者契約を終わらせ、来シーズンからベルリンに活動拠点を移す。
今回、ここパリだけでなく、ドイツ国内やウィーンなど、一連の演奏ツアーを組んでいて、さしずめ「ティーレマン&SKDのお別れ・聴き納めコンサート」のはずだった。しかし彼は、このすべてをキャンセルした。発表によれば、体調不良とのこと。
いや、体調不良って・・・。
キャンセルを公表したほんの2、3日前、彼はベルリンで、ベルリン州立歌劇場24-25新シーズンのプログラム発表記者会見の場に姿を現していた。で、その後、およそ1週間後から始まる、2週間に及ぶドレスデンの定期公演とツアーを全キャンセル。
その理由が体調不良って・・・。
ちなみに、私自身、ティーレマンが振る予定だった公演(海外)でキャンセルを食らったのは、これで3回目。昨年に続き2年連続。昨年のキャンセル理由も、同じく体調不良だった。自分が食らっただけでなく、これまでにも彼がこういうキャンセルを何度か行っているというのは、周知の事実。
おそらくティーレマンからすれば、健康面や芸術上の観点など、彼が100%の力を持って臨むことが出来ない懸念やリスクがほんの僅かでも起こり得る時、キャンセルやむなしという判断が働く、ということなのだろう。
本人はそれでいいかもしれない。だが、周りのどれほどの人がその決断にすんなりと納得するのか。
私はこの指揮者が作り出す音楽を非常に高く評価しているし、尊敬もしている。
だが、こうして契約をいとも簡単に反故にしてしまうその姿勢は、プロフェッショナルとして疑問を呈しざるを得ない。
まあ、もし本当に2週間も仕事をキャンセルしなければならないほどの体調不良が真実だというのなら、私は「大変失礼しました」と謝りますけどね・・・。
ちなみに、オイラはサラリーマンを30年以上やってきたが、「体調不良なんで、仕事を2週間休みます」なんて言ったことはただの一度もないけどな。
突然仕事に穴を開けるということがどれほど重大なことなのかを知っているほとんどの職業人なら、そんなこと出来るわけないと悟るはずだけどな。
さて、そういうことで、急遽白羽の矢が立ったのが、女性指揮者二人。
ミルガ・グラジニーテ・ティーラとマリー・ジャコが二手に分かれ、一連のツアーの代役を引き受けることになった。
パリ公演を担当したのはジャコで、これはフランス人である彼女にとっても、またフランスの聴衆にとっても良かったかもしれない。
彼女が一曲目の「ドン・ファン」を電光石火のような力強いタクトによって鳴り響かせた瞬間、ティーレマン・キャンセルのモヤモヤが一気に吹き飛んだ。
大胆にして勇猛な指揮、鮮烈にして怒涛の演奏、躍動する音楽! おいおい、いきなり名演じゃんか、これ!? わーお!!
続くティル・オイレンシュピーゲルも、メインのブラ4も、炎のように熱い演奏が最後まで続く。
そして、聴衆は熱狂。カーテンコールは絶賛ブラヴォーの嵐。
よくよく考えてみれば、合点がいく。これは世界屈指の名門オケ「シュターツカペレ・ドレスデン」の演奏会なのだ。ティーレマンが不在だからといって、彼らの演奏の質が低下することなどありえない。逆にモチベーションを上げて、ピンチヒッター指揮者とのコラボを楽しんでいるのではあるまいか。
ジャコは、キリル・ペトレンコがバイエルン州立歌劇場の監督だった時代に彼のアシスタントを務めていた。まだ若手の部類に入るが、既に多くのポストが決まっている。
ウィーン交響楽団首席客演指揮者。今年の秋からデンマーク王立歌劇場首席指揮者、再来年からケルンWDR交響楽団(旧ケルン放送響)首席指揮者。
こうして見ると、只者ではないことは一目瞭然だし、事実、SKDとの演奏で、腰を抜かすほどの音を引き出した。
今年3月に来日し、読響を振っていて、日本のクラシックファンにもその名を広めたが、今後ますます注目していく必要がありそうだ。