クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2023/10/26 ヴィツェンツァ・オペラ・フェスティバル

ナポリを離れ、ヴィツェンツァへ。
南イタリアから北イタリアへの移動はさすがに遠くて、電車で5時間半(ヴェローナで乗換え)かかる予定だったのに加え、更に、またもや50分(!)遅延した。
イライラしてはいけない。ここはイタリアである。


ヴィツェンツァは、イタリアの歴史的な建築家アンドレア・パッラーディオの街として知られ、世界遺産にもなっている。
で、中でも最も重要な建築物が、オリンピコ劇場。
パッラーディオ最後の作品で(※ただし完成は彼の死後)、伝統的な古代劇場、そして、現存する世界最古の室内劇場とされる。
日中は普通に観光で内部を見学することが出来、私も以前に一度訪れているが、今回は初めてここでオペラを鑑賞する。

ここでの観劇は念願だった。
劇場といっても、歴史的価値が高い世界遺産文化財であるため、保護の観点から上演数は限られる。公演そのものが貴重で特別なのだ。今回の旅行は、本公演を発見したことで実現させたようなもの。その意味では、旅行のハイライトと言えるだろう。

その特別な公演が、「ヴィツェンツァ・オペラ・フェスティバル」。
クラウディオ・アバドの遺志を継ぎ、指揮者イヴァン・フィッシャーが創設。ピットには、同じく彼が創設したブダペスト祝祭管が入る。期間は10月26日から29日までのわずか4日間で、オペラ3、コンサート1を集中開催する。ということで、私が鑑賞したのはフェスティバルの初日。


2023年10月26日  ヴィツェンツァ・オペラ・フェスティバル  オリンピコ劇場
ドビュッシー  ペレアスとメリザンド
指揮  イヴァン・フィッシャー
演出  イヴァン・フィッシャー、マルコ・ガンディーニ
管弦楽  ブダペスト祝祭管弦楽団
ベルナール・リヒター(ペレアス)、パトリシア・プティボン(メリザンド)、タッシス・クリストヤニス(ゴロー)、フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(アルケル王)、イヴォンヌ・ナエフ(ジェネヴィエーヴ)、ペーター・ハーヴェイ(医師)    他


まずは、オケピットとステージが渾然一体化した劇場内部の写真を御覧いただきたい。
(写真は、本当は撮ってはいけないと思うが、他のお客さんはみんな平気で撮っているし、係の人も誰も咎めない。)


いやー、これは驚いた。そうきたか、と。こういう舞台装置は見たことがない。
もしかしたら、文化遺産的建造物における装置セッティングに諸々の制約があり、苦肉の策だったのかもしれないが、だとしても、類を見ない驚きのステージだ。

元々、「ペレアスとメリザンド」という物語が、どことなく幽玄的でミステリアス。読替えによる現代的なリアリズムよりも、こうした抽象的で創造的で神秘的な空間の方がマッチする。

歌手が歌い演じる場所は二つ。
一つは、指揮者の目の前のスペース。もう一つは、ピットの後方に2箇所、リフトによるせり上がり機構が付いたスペース。

指揮者の目の前のスペースで演じる際、歌手たちは演奏しているオーケストラ奏者の間を分け入りながら入退場しなければならない。オケ奏者にとっては、楽器の邪魔になったり、指揮者を見る視界の妨げになったり、と、色々と大変だと思う。しかし、それを克服することで、このような創造的なステージを生み出すことが可能になったのだ。


イヴァン・フィッシャー指揮のブダペスト祝祭管。このフェスティバルのレジデンスオケである。
オリンピコ劇場で何度も演奏しているので、おそらくこの空間での鳴らし方を把握済なのであろう。統制が取れていて、なおかつバランスが良く、歌手の声とブレンドさせた抑制的な響きが美しい。


ところで、I・フィッシャー&ブダペスト祝祭管のコンビは、知る人ぞ知る、通好みの名門オケだ。今でも時々、「評論家が選ぶ世界のオーケストラ・トップ◯◯」なんていうランキングに、ひょっこり顔を出したりする。

その割には、日本での知名度はイマイチで、多分それほどの需要が無いんだと思うが、来日公演も少ない。
私にしても、別にこのオケを「もっと世界のトップオーケストラとして、正当に評価すべき!」などと声を上げるつもりはさらさらないが、せめて日本に来る機会があった時は、会場に足を運びたいと思う。

もっとも、その機会が今後訪れるのか、見当もつかないが・・。


歌手について。
フェスティバルらしい、実力とネームバリューを兼ね備えたアーティストが集った。
まずは、P・プティボンのメリザンドを聴くことが出来たことを喜びたい。フランスのトップ歌手の一人。間違いなく、世界でも指折りのメリザンドである。
歌唱もさることながら、美しい所作、セリフの言い回し、表情の変化、眼力によるアピールなど、まさに女優の領域。役のメリザンドと完全に同化していて、堅苦しさやわざとらしさがなく、ナチュラルかつピュア。思わず見とれてしまう。

ペレアスのB・リヒターは、昨年の新国立劇場ペレアスとメリザンド」公演でも来日して、同役を歌った。きっと世界中でペレアスを歌っているはず。スペシャリストと言ってもいいだろう。フランス語を滑らかに旋律に乗せるのが上手で、耳に心地良い。

ゴローのT・クリストヤニスは初めて聴いたが、ギリシャ出身のベテラン歌手。決して押しが強い歌い方ではなく、どちらかというと無難な感じだったが、それゆえに「若いペレアスに嫉妬する初老の男性」役が何だか上手くはまっていた。

アルケル王のF・J・ゼーリヒは、当初発表されていたニコラ・テステからの変更代演。この日だけの変更なのか、全3公演すべてに代わったのかは不明。いぶし銀の歌唱だった。