クラシック、オペラの粋を極める!

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2022/9/25 オロペサ&サルシ リサイタル

2022年9月25日  リセット・オロペサ&ルカ・サルシ リサイタル  東京文化会館
指揮  フランチェスコ・ランツィロッタ
管弦楽  東京フィルハーモニー交響楽団
ヴェルディ  マクベスより「慈悲、敬愛、愛」、椿姫より「ああ、そはかの人か」、「ジェルモンとヴィオレッタのデュエット」、リゴレットより「悪魔め、鬼め」
ドニゼッティ  ランメルモールのルチアより「エンリーコとルチアのデュエット」
ジョルダーノ  アンドレア・シェニエより「国を裏切る者」
ベッリーニ  清教徒より「狂乱の場」
ロッシーニ  セヴィリアの理髪師より「ロジーナとフィガロのデュエット」    他


2011年のボローニャ歌劇場来日公演で「清教徒」のリッカルド役で出演していたルカ・サルシ。この時の彼のことをはっきり覚えている人がどれくらいいるだろうか。
かく言う私もほとんど印象に残っていない。
その次に、2012年にイタリア・マチェラータ音楽祭に行き、この時「椿姫」のジョルジョ・ジェルモン役で出演したのを聴いているのだが、これもほとんど記憶に残っていない。

私がサルシの顔と名前を素晴らしい歌唱と共にしかと脳裏にインプットしたのは、2014年のローマ歌劇場来日公演で、リッカルド・ムーティ指揮のもと、ナブッコのタイトルロールを歌った時だ。
それ以降、ザルツブルク音楽祭での「アイーダ」のアモナスロ、ミラノ・スカラ座での「アンドレア・シェニエ」のカルロ・ジェラール、同じくスカラ座での「エルナーニ」のドン・カルロの諸役を聴き、彼が純正イタリアの正統バリトンとして揺るぎない地位を確立させ、偉大なるレジェンド、レオ・ヌッチの後継者となったことをはっきりと理解した。


一方のオロペサ。
私が初めて彼女を知った、というか、その名前を見つけたのは、2010年のメトロポリタンオペラでプレミエ上演されたワーグナーニーベルングの指環」(映像)のヴォークリンデ役である。まあ、端役だ。
大掛かりなセットを施したロベール・ルパージュ演出の犠牲者(?)として、ラインの乙女たちは冒頭に宙づりで高所から歌うこととなり、リハーサルでは3人が「きゃー、怖い、怖い!」と喚いていたシーンが、製作の舞台裏を収めたドキュメンタリー・ビデオに残されている。
その後、彼女が出演した2016年ミュンヘン・オペラフェスティバルのラモー「優雅なインドの国々」上演ライブもブルーレイで視聴したが、どちらかといえば歌よりも「きれいなお姉さん」の印象の方が強かった。

それが今では世界的な歌劇場で引っ張りだこのトップ歌手。近年の躍進は目を見張り、「あわわ・・」と驚くばかりである。


今年6月のドミンゴ&ゲオルギューのリサイタルもそうだったが、ソロと違い、デュオの場合は相手がいるため、丁々発止のやり取りで歌い合う、というのが実に楽しい。表情を作り、動き、見つめ合い、手を取り合う。こうした一つ一つの振舞いが、装置がなくても、衣装を着なくても、オペラの一場面をくっきりと想起させる。

世界的な一流歌手というのは、さすがというか、聴かせ、そして見せつけるのが上手い。演技も小慣れていて、堂に入り、洒落ている。まさに千両役者だ。

更にデュオ・リサイタルの良いところは、ソロを交互に歌い、そしてデュエットと、聴衆は続け様に素敵な歌唱を満喫出来ること。
これがソロリサイタルだと、「一曲歌ったら、ハイ次の曲はオーケストラ演奏曲で一休み」というパターンが繰り返される。結局全プログラムのおよそ半分がオケの小品演奏になることもしばしば。
はっきり言っちゃうと「そんなのいらねえ」なんだよね。だって、歌手を聴きに来ているんだからさ。もちろんずっと歌い続けることが出来ないというのは、分かるんだけどね。
そういう意味で、デュオ・リサイタルはお得。


二人を比較してもしょーがないが、個人的には、圧倒的にルカ・サルシの貫禄の歌唱に魅了された。
上にも書いたが、今やサルシはイタリアン・バリトンの第一人者。本格的なイタリア・オペラを上演したいのなら、絶対に彼が必要と言っても過言ではない。そのサルシの歌声をじっくりと聴くことが出来たのだ。大満足。


この日も主催者は例のごとく、「ブラヴォーなどの掛け声はお控えください」アナウンスをしていたが、こんなに素晴らしいショーを聴かせてくれて、「黙って拍手だけしてろ」とか言われても、「そんなの無理」というもの。会場のあちこちから、多少遠慮気味ではあったが、ブラヴォーが飛んだ。

いいと思うよー。
だってそれ、至極真っ当な反応の感情表現であり、なおかつ演奏家に対する心からの答礼なのだ。そんな行為を禁止してどうしようというのか。

実際、ルカ・サルシさんは、本プロの終了後、カーテンコールで、「なになに、アンコールが聴きたい? じゃ、もっとコールしてよ! ほらほら~」と会場を煽っていた。

そうだよ。演奏家だってそれを待ち望んでいるんだ。きっと演奏家はそれが嬉しいんだ。私たちだって、応えなければ。

「コロナが怖い」と顔をしかめるアナタ。今はもうコロナと共存していかなきゃいけない時代に入ったんです。
そもそも「ブラヴォー」でコロナ感染するって、いったい誰が言った?
ちなみに、終演後、会場に設置されたアンコール曲目紹介の掲示板に群がるお客さんに対し、係員が「距離を開け、群がらないようにしてくださ~い!!」と大声出していたが、じゃあ、そっちはいいのかよ!?