クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2011/12/31 ジルベスターコンサート

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2011年12月31日  ジルベスター・ガラコンサート   バーデン・バーデン祝祭劇場
ヨハン・ボータ(T)&エヴァ・マリア・ウェストブルック(S)デュオリサイタル
指揮  フランク・ベールマン
アドリアーナ・ルクヴルールより「私は創造の神の下僕」、トスカより「妙なる調和」、オテロより「第一幕最終場のデュオ」、ワルキューレより「冬の嵐は過ぎ去り」、タンホイザーより「厳かなこの広間には」、アンドレア・シェニエより「ある日、青空を眺めて」、「亡くなった母を」、「第四幕最終場のデュオ」   その他
 
 
 ステージにのっしのっしと「関取」が登場した時、私は本当にひっくり返るくらい驚いた。その瞬間の私の表情をもし誰かが写真で撮っていたら、相当に笑える間抜けポッカン顔をしていたと思う。カバのあくびくらいでっかく口を開けていたのは間違いない。
 
 私はまったく知らなかったのだ!主役が交代になったことを。演奏開始のその時まで。
 
「ヨ、ヨヨッ、ヨハン・ボータぁぁ?!?! はあぁ??」
事態が飲み込めない。
「うっそぉ~~!!?」
 
 
 旅行出発の前々日くらいに自宅PCで確認したホームページ情報では、「ヨナス・カウフマンエヴァ・マリア・ウェストブルック」だった。当日、祝祭劇場でチケットを受け取り、会場に入っても、私は全く変更に気が付かなかった。
 もし、急なキャンセルの場合は、劇場支配人がステージに現れてお詫びの口上でも述べるだろう。だが、そういうこともなかった。
 
 私は曲と曲との合間に、お隣さんに「スミマセン」とお願いして、プログラムをちょっくら拝借し、確認してみた。そこにはしっかりボータの名前が。しかも写真付。(ちなみに、私は有料プログラムを買わない人間です。日本でも海外でも。)
 
 つまり、本番直前のドタキャンではなく、数日前には今回の変更が決定になっていたということだ。
 ま、そりゃそうだろう。だからこうしてボータがステージに立っているわけだ。ドタキャンだったら、ウェストブルックの単独リサイタルになっていたはずである。
 
 客席を見渡して、更にもう一つ、事実が判明した。かなりの空席があっちにもこっちにも。もともとかなり早くにソールドアウトしたこの公演。さては主催者側、払戻しも受け付けたのだな・・・。
 
 それにしてもヨハン・ボータ! またもやヨハン・ボータ
 昨年秋、バイエルン州立歌劇場日本公演で、カウフマン降板のピンチを救ったのがボータ。
 全ての事態を掌握した時、一瞬、確かに落胆したのは事実だったが、すぐに「オーケーオーケー。ボータさん、あんたは偉い。あなたのアリアを堪能させてもらいますよ。」と気を取り直した。
 
 負け惜しみでもなんでもなく、私は歌‘だけ’だったら、カウフマンよりもボータの方が上だと思っている。本当です。バイエルンローエングリンでカウフマンが落っこちた時、大多数のオペラファンはがっかりしたと思うが、私は代わりがボータと聞いて喜んだ人間である。
 そもそもカウフマンは容姿で得をしている。もちろん、素晴らしい歌手であることを否定はしない。歌だけでも十分スターの資質ありだろう。だが、スターではなく‘大スター’になれたのは間違いなく容姿がかっこいいからだ。
 
 そうやって見事に大スターに登り詰めると、特権をもらうことができる。「わがままが許される」という特権。
 日本に帰国し、自宅のPCでメールチェックしたら、バーデン・バーデン祝祭劇場から今回に関するアナウンスメントが届いていた。キャンセルの理由はもちろん「病気」。毎度おなじみの言い訳。
 劇場支配人のメッセージで、ひとしきりチケット購入者に対するお詫びの後、次のようなコメントが書かれてあった。
 
「親愛なるヨナス!今回の件を残念に思います。速やかにご回復されますことを。我々はいつも貴殿の側にいます。祝祭劇場の聴衆は、この劇場であなたが再び舞台に立ち、元気に歌ってくれる日が待ち遠しくてなりません。」
 
・・・・あほくさ。
 バーデン・バーデンのジルベスターコンサートは、2010年もカウフマンのリサイタルだったが、カウフマンはこれをドタキャンした。つまり、2年連続で「ジルベスターコンサート」という重要な公演に袖を振ったのである。にもかかわらず、上記の支配人のコメント・・・。 甘やかすのもほどほどにした方がいい。
 
 主役の降板というのは、公演の華やかさに水を差す。元々この公演は「ヨナス・カウフマンエリーナ・ガランチャ」という夢のジョイントコンサートだった。その両看板が降りてしまったのだから、しらけた雰囲気になってしまうのは仕方がないだろう。
 だが、今回の代役を甘く見てはいけない。ボータもウェストブルックも、世界的な大歌手である。最初からこの二人のリサイタルだとしても、十分集客が見込めたはずだ。私もきっとその一人だろう。
 
 キャンセルによって生じてしまった空席は、きっと熱烈なカウフマンファンに違いない。キャンセルせずに劇場に集ったお客さんは、このピンチヒッターたちに盛んな喝采を送っていた。
 特にボータに対しては、かなりのブラヴォーが飛んでいた。このブラヴォーは、「代わりを務めてくれてありがとう。」の儀礼的な物でなく、間違いなくその歌声によって魅了された聴衆の率直な賛辞だった。カウフマン降板によって喪失しかけた公演の箔を、ボータは持てる実力で再び引き上げた。私はそのことがとてもとても嬉しかった。