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2016/4/30 兵士たち(軍人たち)

2016年4月30日  ヘッセン州立劇場(ヴィースバーデン
ツィンマーマン  兵士たち(軍人たち)
指揮  ツォルト・ハマー
演出  ワシリー・バルカトフ
パヴェル・ダニルク(ヴェーゼナー)、グロリア・レーム(マリー)、セレステ・ハヴォルト(シャルロッテ)、ホルガー・ファルク(ストルツィウス)、マルティン・コッホ(デスポルト)、ヨアヒム・ゴルツ(アイゼンハルト)   他
 
 
衝撃の公演だった。既成概念を覆すような演出。なんという大胆不敵さだろうか!
 
まずは写真を御覧頂きたい。
イメージ 1
 
舞台上に客席が特設されているのがおわかりだろう。
ステージ上に観客席を設け、そこで劇中劇を演じるという演出はよくある。今回もてっきりそうかと思った。
が、それにしても、座席の数があまりにも多すぎる。
やがてそこに入場してくるお客さん。どう見ても出演者のように見えない。
一方で、通常の平土間席に入場してくるお客さん。彼らの中には軍服を着ている人がいたり、やや時代がかった衣装を着ている人がいたりして、雰囲気が違う。
 
彼らがひょっとして出演者なのか!?
 
開演となり、指揮者がタクトを下ろした。あたかも毒グモが蠢くかのような狂気の前奏。炸裂する不協和音。
すると、平土間席の人たちが一斉に立ち上がり、演技をし始めた。
やはりそうだ!舞台にいる人たちが一般客で、平土間席にいる人たちが出演者だったのだ!
 
だが、それなら、主役たちはいったいどこのスペースで歌い演じるのだ?ずらりと椅子が並んだ客席の中で演技するのはあまりに窮屈ではないか?
 
そう思っていたら、音楽の進行真っ最中に平土間席に畳のような板を並べ始めると、あっという間にそこに特設ステージが出来上がった。
イメージ 2
 
ちなみに私は舞台上の仮設客席ではなく、通常のバルコニー席(3階)で鑑賞した。出演者が演じるステージは平土間だけで、2階より上のバルコニー席には普通の観客が陣取っている。つまり舞台側からを含め、観客が360度全方向から上演を見つめることになったのである。
 
驚いたのはそれだけではなかった。
演出家のテーマは、作品のタイトル「兵士たち」のとおり、戦争だ。
 
ステージ(平土間)の真上の天井にツェッペリン号飛行船を模した巨大な風船を飛ばしたかと思ったら、それをスクリーンに仕立て、そこに空撮映像を写しだした。ヴィースバーデン市内及び劇場が空爆攻撃され、破壊されていく様子である(もちろんCG映像)。
美しい街並みと誇らしい劇場が、見るも無残な廃墟となっていく。ただの映像ではなく現実感を創出させるために、空爆を受けるごとに実際の天井からガラス破片や瓦礫をバラバラと降らせる。
ステージには、重傷を負った兵士が乗せられた担架が次々と運ばれ、並べられる。苦しみ、やがて息がなくなり、人は死体と化す。そこに白いシーツが被せられ、無情にも放置される。
 
これが戦争なのだ。
目を覆いたくなるような惨状、生々しい実態。破壊と殺戮、これが戦争の実態なのだ。なんて恐ろしい!
 ただでさえ激烈な音楽なのに、視覚に飛び込んでくる事象は壮絶な絵巻。心拍数が高騰するのを感じた。
 
このプロダクションで、どの歌手の歌唱がどうだのといった批評感想は、不要。ていうか無理。演奏者、出演者、全員が一丸となり、プロダクションの一ピースとなって、困難な上演を完成させた。それだけで十分に讃えられよう。
 
この日は毎年開催される「ヴィースバーデン国際5月音楽祭」の開幕プレミエ公演。
実は、この「兵士たち」一連のチクルスだけが、チケットがなかなか発売されなかった。他の公演はスケジュール発表と同時に売り出しているというのに。
その理由が今ようやくわかった。客席を使用する演出側の要請のため、販売座席の割り当てがなかなか決まらなかったのだ。
 
私は「ひょっとして関係者と招待のみの限定公演なのではないか」と疑い始め、しびれを切らし、ヴィースバーデン行きをもう少しで断念するところだった。
危ないところだった。ずっと待ってよかった。見られて本当に良かった。
 
ただし、公演鑑賞後、興奮して食事がなかなか喉を通らなかった・・。