クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

1997/9/12 ウィーン国立 ドン・カルロ

1997年9月12日   ウィーン国立歌劇場
ヴェルディ   ドン・カルロ
指揮  ミヒャエル・ハラス
演出  ジャン・ルイージ・ピッツィ
フェルッチョ・フルラネット(フィリッポ2世)、ニール・シコフ(カルロ)、カルロス・アルヴァレス(ロドリーゴ)、エリアーヌ・コエッリョ(エリザベッタ)、ヴィオレッタ・ウルマーナ(エボリ公女)、グレブ・ニコルスキー(宗教裁判長)    他


以前の記事に書いたとおり、初日のこの日に限り、立ち見鑑賞を決行した。
この立ち見席、ミラノ・スカラ座バイエルン州立歌劇場など、ウィーン以外でも設けている劇場はあるが、たいていは天井に近い上階エリアが普通である。
ここウィーンにおいて特筆すべきなのは、上階エリアだけでなく、平土間席の後方にも設置されていること。場所的には、客席全体の中でも、ある意味特等席と言える。
数メートル離れた場所に座っている人のチケット代はおよそ2万円。こっちは300円。学生など安く観たい人にとって、利用しない手はない。
しかも、立ち見用として割り当てられている総数は500以上。非常に多い。だから、一見さんのような観光客も、連日のように通っている地元の常連客も、常にたくさんの人たちが群がっている。

必ず当日に販売される、というのも大きい。
ネームバリューのある指揮者や歌手が登場するプレミエ公演だと、前売り券が早々に完売となり、入手難となることがある。そうした場合、最後のチャンスとして「立ち見席があるではないか」というのは、とてもありがたい。前売り券の入手は運にも左右されるが、立ち見席なら「頑張れば必ず観られる」というわけだ。

私は、本公演を含め、これまでに5回ほどウィーンで立ち見鑑賞している。
近年、歳を取るにつれて、立って鑑賞するのはしんどいと感じるようになったので、利用が遠のきつつあるが、上演時間が長くないオペラなら、いいかもしれない。
2時間くらいの作品で、しかも幕間休憩もしっかり2回ある「トスカ」とか「トゥーランドット」なんか、最適だね。

逆に言うと、長大なワーグナー作品を立ち見で観る人たちの根性は、すごいというか、信じられないというか、無謀というか(笑)。
でもね、幕が進むに従い、単なる観光客の一見さんたちが次々とドロップ・アウトしていき、エリアから人が減っていくという現象が起きるのだ。そして最後は猛者だけが残る。これはなかなか面白いね。
(※ 現在ウィーン国立歌劇場は、このコロナ禍においても9月から20-21年シーズンを開始させているが、三密エリアと言っても過言ではない立ち見席は、さすがにクローズにしているとのこと。)


立ち見の話が長くなってしまったが、本公演について話を戻そう。
出演キャストを見てほしい。錚々たる顔ぶれだ。

数々のヴェルディのオペラの中で、ドン・カルロほど「いい歌手が揃うかどうか」がカギになる作品はないのではないか。
フィリッポ2世、カルロ、ロドリーゴ、エリザベッタ、エボリ公女・・・それぞれが個性的な役柄で、音楽的にも聴き応えのあるアリアが散りばめられている。良い歌手が各々の持てる実力をフルに発揮した時、このオペラはキラキラと輝く。
で、そうした優秀な歌手を集めることが出来るのが、一流歌劇場の証。ウィーン国立歌劇場は、そういう意味でも世界のトップ歌劇場の面目躍如というわけだ。

シコフ、アルヴァレス、フルラネット。世界にその名を轟かせている彼ら。
その彼らを、私はこの時初めて聴いた。感激だったし、「さすが」と唸った。特にフルラネットは、フィリッポ2世歌いの第一人者として、やがて他の追従を許さなくなっていくのである。

だが、実を言うと、この公演で最も衝撃を受けたというか度肝を抜かれたのは、ウルマーナだった。
彼女については、当時、名前だけ聞いたことがあるといった程度だったが、本当に驚いた。ヘビー級王者のようなド迫力の歌声だった。

ウルマーナは、この頃から世界最高のメゾの一人として一気にスターダムにのし上がっていった。その破竹の勢いの瞬間をこの時目撃することが出来たのは、とても良かった。