指揮 ベルトラン・ド・ビリー
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
プロコフィエフ ヴァイオリン協奏曲第1番
「ようこそド・ビリー、祝! 日本のオーケストラに初登場!」
フランス人であるが、主たる活動拠点はウィーン。2010年までウィーン放送交響楽団の首席指揮者を務めたほか、シュターツオーパーにも度々登場。単なるレパートリー上演指揮者に留まらず、昨年秋には椿姫の新演出上演を指揮するという重責も担った、同歌劇場になくてはならない指揮者の一人である。
もっとも、ただ単に「ウィーン国立歌劇場に登場しているから」といって、盲目的に礼賛するつもりはない。一昨年にウィーン放送交響楽団と来日した公演を聴きに行ったが、その時はなんか‘やっつけ仕事’のような印象が残った。ここは、「プライドは一流、そつなくこなす実力は超一流、でも感銘度はイマイチ」という、なかなか一筋縄ではいかないN響に対する手綱さばきのお手並をとくと拝見させていただくとしよう。
ところが、二曲目のプロコフィエフから、徐々にド・ビリーの真価が発揮されていく。
ソロのファウストの演奏は、派手さはなく非常に手堅くて、確かに上手かったけど、ソロだけだったら面白さの点でイマイチだった。そこの穴を埋めたのはド・ビリーとN響である。オーケストラがあたかもスライド写真のように色彩や趣きを刻々と変化させることによって、ソロが見事に浮かび上がった。伴奏主導によって曲の妙味を引き立てる。これはド・ビリーの手腕によるものだろう。
そして圧巻はシューベルト。あのN響から生命力溢れるワクワクするような音を引き出していた。タクトは決して派手ではなく、一見すると正攻法で臨んでいるように見えるが、N響のサウンドが一段高いレベルに引き上がったのは間違いなく、揺るぎない自信と豊富な経験の賜物なのだと思った。おそらく、最初のリハーサルの段階で、N響奏者連中は「むむっ、この指揮者、で・き・る!!」と瞬時に悟ったに違いない。
この演奏会は間違いなく成功だった。N響も手応えを感じただろうし、きっと「是非、次回を」と再オファーを出すに違いない。
あとは、興に水を差すようなフライングブラボーのせいで、ド・ビリー自身が聴衆のレベルの程度に嫌気を感じなければいいのだが・・・。