全世界に衝撃が走ったデンマーク対フィンランド戦。インテルで活躍するデンマークのクリスティアン・エリクセンがピッチにバッタリと倒れた。騒然とした雰囲気の中、仲間の選手たちが彼を覆うように取り囲み、医師が救命措置を懸命に行っているシーンは、思わず息を呑んだ。
直ちに入院となり、無事回復したようだが、ピッチでは一時心肺停止にまで陥ったのだという。蘇生措置がうまくいき、多くのファンが安堵したことだろう。
続くデンマークの第2戦は、感動的だった。
デンマークのホームゲームのベルギー戦。満員に膨れ上がったスタジアム。
オープニング・セレモニーではエリクセンのネームが入った巨大なユニフォームパネルがフィールドに設置され、多くのファンやサポーターが各々エリクセンを励ますメッセージを書いたボードを掲げていた。
更に、ちょうどエリクセンが倒れた時間である試合経過10分になると、両チーム選手がプレーを中断し、エリクセンを励ますための拍手セレモニーを敢行。審判も参加し、会場全体が盛大で温かい拍手に包まれた。
なんて美しい、感動的な光景なのだろう。
見ていて思わず涙が出た。
世の中は世知辛い。アメリカでのヘイトクライムや中東での出来事を見るまでもなく、世界は憎しみや差別、欺瞞に溢れている。
それでも、コペンハーゲンで繰り広げられた連帯、絆を目の当たりにすると、人間って捨てたもんじゃないなと思う。
このベルギー戦で、デンマークの選手たちは、凄まじいくらいに気合いが入っていた。全員が「エリクセンのために」という旗印の下、一丸となったのだ。
そうなんだろうな。そうなるよな。当然だろう。
開始早々からベルギーのゴールに押し寄せる迫力はすごかった。優勝候補の一角を占めるベルギーは、しばらくの間押し込まれ、為す術もなく、タジタジだった。わずか2分でデンマークが先取点をゲットした時は、スタジアムが大きく揺れた。デンマーク国中の人々の心が一つになった瞬間だった。
しかし、歓喜は長く続かない。
デンマークはあまりにも気合いが入り過ぎ、あまりにも飛ばし過ぎた。気持ちは十分に伝わってきたし、理解できるが、やはり冷静さを欠いていたと思う。
サッカーは、90分間ずっと最初から最後まで全力で走り切ることなど不可能。気持ちだけでは勝てないのである。
百戦錬磨のベルギーは、それを分かっていた。たぶん相手が最初から前掛かりで来ることをお見通しだったのではないか。じっと耐え、先取点を取られても、落ち着いて冷静に反撃の時を待っていた。
反撃のタイミングを見てピッチに送り込まれた選手が、凄すぎた。
ケヴィン・デ・ブライネ、エデン・アザール、アクセル・ヴィツェル。2018年ワールドカップで第3位という躍進を遂げたチームの主力たち。スーパースターだ。
こんな選出を途中交代で繰り出してくるベルギーは、まさに鬼である。
かくしてエリクセンのために勝利を捧げたかったデンマークを非情にも打ち砕く。
それでも、決勝点を決めたケヴィン・デ・ブライネは、ゴール・パフォーマンスを一切せず、他のベルギーの選手たちも喜びを控えた。国を越え、試合を越え、同じサッカー選手として、スポーツマンとして、連帯を示したのだ。本当に素晴らしかった。
デンマークの選手たちは、そりゃ悔しいだろう。
だが、スタジアムのファンたちは、全力で戦った選手たちに温かい拍手を送っていた。実に清々しかった。負けはしたが、語り継がれる試合をしたと思う。