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2018/11/24 二期会 後宮からの誘拐

2018年11月24日   二期会   日生劇場
指揮  下野竜也
演出  ギー・ヨーステン
松永知史(コンスタンツェ)、冨平安希子(ブロンデ)、金山京介(ベルモンテ)、升島唯博(ペドリッロ)、加藤宏隆(オスミン)、大和田伸也(セリム)
 
 
まず、作品のタイトル表記だが、主催者は「後宮からの逃走」としていたが、私は以前から「後宮からの誘拐」と認識しているため、そのようにさせていただく。
 
演出に、欧州の劇場で活躍するベルギー出身のギー・ヨーステンを迎えたのは素晴らしい。
しかも、二期会だけでなくギー・ヨーステンにとっての新演出・新制作とのことであり、このために来日し、きっちりと稽古、振付けを行ったそうだ。貸出公演あるいは共同制作にして、既に演出が出来上がった物を再演するのとはわけが違う。これは特筆すべきことである。
 
こうして出来上がった舞台を見て、さすがヨーロッパ出身の演出家だなと思った。いかにもという感じで、欧州の中堅クラスの劇場に行くとよく見られる展開、方向性があった。
 
要するに、その作品を通じて何が見えるか、何を語れるかをきちんと明示しているのだ。
で、それこそが演出家としての責務であることをちゃんと認識していることが潔い。
その際、時代を現代に移すことはごく普通のことで、大した問題にならない。あくまでも現代人の視点で作品を見つめている。
(翻って日本人演出家は、作品を原作の通り正しく観客に伝えることに重きを置く。決定的な違いだ。)
 
具体的なポイントは、二組のカップルが、様々な障害にぶつかり、すれ違いや葛藤を乗り越えながら、成長し、最終的にお互いの愛を確かめ合うという物語に仕立て上げていることだろう。単なるドタバタ脱出劇にしないのがミソ。
多分、演出家は、同じモーツァルトの「魔笛」との共通性を見出していたと思う。
(共通と言えば、葛藤の末に「許す」という行為にたどり着くのは、「皇帝ティートの慈悲」に合い通じるものがあるが、そこに演出家がポイントを置いたかどうかは、よくわからない。)
 
いずれにしても、出演者の皆さんは、演出家の意図を汲み取り、演技は素晴らしかった。ドイツ語もかなり頑張っていて、そりゃもちろんドイツ人並みを求めるのは酷だが、仮にドイツの劇場で披露しても現地人は十分聞き取ってくれるだろう。(大和田伸也さんが時折駆使したドイツ語は、超下手くそ(笑)。)
 
そのセリフの問題だが、歌唱の際は別にして、それ以外はドイツ語じゃなくても、普通に日本語で良かったのではないかと思った。じゃないと、わざわざゲストで呼んだ大和田伸也の日本語のセリフと整合しない。セリムとの会話は、違和感しかなかった。
 
歌唱について。
ベルモンテ役の金山さんは、良かった。オスミン役の加藤さん、ブロンデ役の冨平さんは、演技込みの総合評価でマル。コンスタンツェ役の松永さんは、申し訳ないけど、二期会レベル。その基準内の評価でいいのならお褒めしますが、それをお望みですか?
 
指揮の下野さんは、いつもながらの安定した棒さばき。安心して音楽に身を委ねられるという点では、この指揮者は傑出していると言えるだろう。
でも、それだけでは物足りないと感じてしまう私は、欲張りなのだろうか。