2018年2月11日 レンヌ歌劇場
ヤナーチェク カーチャ・カバノヴァ
指揮 ヤロスラフ・キズリンク
演出 フランク・ファン・レッケ
マルティナ・ザドロ(カーチャ)、ヴラトカ・オルシャニツ(カバニハ)、イレーナ・パルロフ(ヴァルヴァラ)、サシュア・チアーノ(ディコイ)、アリャージュ・ファラシン(ボリス)、ルスミール・レドジッツ(ティホン) 他
さて、レンヌの歌劇場で、ヤナーチェクのオペラが上演された。
配布された当日のキャスト表を見ると、主な出演者のほぼ全員の氏名に特殊文字が使われていた。
私はこのことに、何を隠そう、単純に「すっげえな」と感心してしまった。
名の知れた一流劇場なら、予算もそれなりにあって、外からいくらでもソリストを呼べるだろう。
だが、ローカルの劇場だと、なかなかそうはいかない。
たいていは劇場に専属契約歌手がいて、多くの公演は彼らのやり繰り出演によって支えられ、成り立っている。その際、習得が容易ではない言語の作品(まさに今回のヤナーチェクのようなチェコ語など)を上演する場合は、母国語訳にしてしまうことも多い。
人口およそ20万人程度の地方都市レンヌの劇場クラスだと、こうした対処によって公演を仕上げるのがなんとなく普通だろうに、大量の国外ソリストを呼んできたというのは、それなりのパワーがあって、そのパワーをこのチクルスに掛けてきたのだなと思ってしまうのだ。
いや、もちろん、身の丈予算に見合う格安歌手を揃えられた、たまたまそれがうまくいったのかもしれない。まあ実際そうなのだろう。
それに、カーチャのような滅多に上演しないレア作品のために、カンパニー内で膨大な労力と手間暇をかけるくらいなら、サクッと来てもらっちゃう方がきっと都合がいいに違いない。
そうした現実的な裏事情はきっとあるにせよ、それでも私は、ここは単純に「すっげえ」と感心することにしたい。
ローカル劇場のレンヌが(この劇場のことをどれほどの日本人が知っている?)、滅多に上演されない隠れた名作「カーチャ・カバノヴァ」上演のために、あえてチェコ人ソリスト招聘に踏み切った。素晴らしいじゃありませんか。拍手を贈ろうじゃありませんか。
ということで、私もはるばる駆けつけましたよ、日本から。
(別にこの公演のためにやってきたわけじゃないけどな。)
豪華な舞台装置など望むべくもない。余計な物を排し、シンプルに徹し、照明と細かな演技によってひたすら登場人物の心象にフォーカスしていくスタイル。これこそ、舞台芸術の原点といえるだろう。
今回の演出アイデアでは、カーチャの黙役を作り、「心の中にいるもう一人の自分」「本当はこうしたい、このように生きたい、という欲求を具現化する、夢の中の自分」を表現して、彼女の心情を作り上げている。
手法としては結構ありがちで、「なんだかどこかで見たことある」風景だが、でも、それが観ている人の心にグッと迫ってくる。十分に成功していると思った。素敵であった。
指揮者のキズリンク。この名前にピンとくる人もいらっしゃろう。新国立劇場で上演した「ルサルカ」「死の都」を指揮した人だ。こういう場所で思いがけず音楽を聴くことが出来たのも、何かの縁なのだろうな。
そのキズリンクのタクトといい、出演歌手のレベルといい、まったく文句のつけようがない。見事に完成されたヤナーチェクのオペラ。何と言っても、原語上演の醍醐味。上記のとおり、「よくやったレンヌ!」とあっぱれの拍手を贈った。