クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2017/3/19 帰国

リヨン・サンテグジュペリ空港。午後1時30分発のミュンヘン行きは、出発時間の15分前だというのに、搭乗はおろか、肝心の空港職員さえ搭乗口カウンターに現れない。
 
ヤバい。これは遅延だ。間違いない。
 
ようやく現れた職員がカウンターにある機械のキーボードを叩くと、案内モニターに「DELAYED」表示が付いた。遅延時間は1時間。搭乗を待ちわびていた乗客たちがため息をつく。
 
1時間・・・。
遅延によってミュンヘンに到着する予定時刻は午後3時30分。
乗り継ぎによってミュンヘンから出発する羽田行き便の出発時刻は午後3時25分。
 
間に合わねえじゃん・・・。
 
ルフトハンザ職員からの回答。
「乗り継ぎはちょっと無理ですね。とにかくミュンヘンに行き、そこで振替えの調整をしてもらってください。」
 
ミュンヘンでの振替調整によって、同日中に帰国できる保証はない。系列グループ会社のフライトへうまくアレンジしてくれるかもしれないが、実際そうしてくれるかどうかは分からない。少なくともルフトハンザだとミュンヘン-東京は1日1便だ。翌日に回される可能性がある。
 
私はすっかり諦めモードに入った。悪いのは私じゃない。ルフトハンザだ。もはやどうすることもできないのである。
 
さっそく私は空港内のWi-Fiに接続し、職場同僚に状況連絡をラインのメッセージで送った。既読マークを確認。返事ももらった。これでとりあえず無断欠勤ということはない。
なんとなく落ち着いた。落ち着いたら、途端に虫が騒ぎ始めた。
「今日、ミュンヘンでなんかオペラかコンサートやってないかなあ・・」
オレって、ホントしょーもねえ野郎だ。
 
予定どおり(?)ミュンヘンに午後3時30分に到着した。もう羽田行きの飛行機は、行ってしまったのだろうか。私を置いてけぼりにして。
こうした場合、しっかりした航空会社なら、飛行機を降りたすぐのゲート付近で「◯◯行きの搭乗券をお持ちの方」というカードを掲げた職員が待機し、次の調整を図ってくれる。実際そうした職員はいたが、「羽田行き」というカードを掲げている人はいなかった。
「テメエでやれってか? まったくもう・・・」
そう思った時だった。
空港内呼び出しアナウンスが放送された。
Passenger Mister ◯◯(私ね私)for Haneda=Tokyo, Go to gate H20, IMMEDIATELY!
 
生まれて初めて海外の空港で呼び出しされた。飛行機が私を待っている!? うっそ~!!
私は走った。全力疾走した。ちょっとここ数年覚えがないくらい、マジで走った。
しかし、私は大きな荷物を抱えている。コートも着ている。軽快に走れるわけがない。
それになんといっても体力低下が著しい中年オヤジである。いやキツイのなんの。あっという間に息が切れる。空港は広い。目指すゲートは遠い。ハアハア。もう駄目だぁ・・。
 
関門が立ち塞がった。パスポートコントロールである。人が並んでいる。10人位の列になっている。
私はなんの躊躇なく列の先頭に飛び込む。周囲の人に「急いでます!ゴメンナサイ!ほんとゴメンナサーイ!」と頭を下げて割り込んだ。
 
審査官がパラパラと私のパスポートをめくる。なんだか時間がかかっている。質問された。
「あなたはいつここに来たのですか?」
 
はあぁ???
いつ来たって・・・このオッサンなに聞いているんだ? 今日だろ。今だろ。アホか!
Today!!」と即答。絶句する審査官。
そうこうする間に、二度目の館内アナウンスが流れた。
イライラしている私は審査官に言う。
「聞きましたか、今のアナウンス。あれ、私です。呼び出されているんですよ。出発する飛行機が待っています。お願いします。急いでください!!」
 
後から冷静に思い返して、質問に合点がいった。
審査官はおそらくパスポートの中から今回の旅行における最初のEU入国スタンプを探していたのだろう。だが、すぐに見つからなかったので、私に「日本からはいつ来たのか?」と尋ねたのだろう。
だが、この瞬間はそんなことまったく分からなかった。気が付かなかった。
ドイツを出国しようとする際に「(日本から)いつ来たのか?」と聞かれ、「今日だ!」と答える大マヌケな問答。
もう、めちゃくちゃだ。
 
パスポート審査をとにかくくぐり抜け、再びダッシュし、羽田行き搭乗ゲートにたどり着いたのは、出発予定時刻を15分過ぎた頃。
私が走ってやってきたその瞬間、ゲートのカウンター職員は「来ましたね!!」「おお!!」「待ってましたよ!!」と皆で歓迎してくれた。拍手してくれた職員もいた。ルフト職員もまた私の乗継ぎを心配してくれていたのだ。
で、私はというと、ハァハァゼェゼェで顔も上げられないくらいだった。
 
「飛行機が遅れたんですぅ(ハァハァ)。死ぬほど走りましたぁ(ゼェゼェ)。」
もちろん分かっていますとでも言うように大きく頷く職員。
「もう大丈夫ですよ。焦らなくていいですよ。深呼吸してゆっくり機内に向かってください。」
 
私が機内に入った瞬間、アナウンスが流れた。「ボーディング、コンプリート」
乗客がすべて着席して整っている中、一人汗だくで息切れしている野郎がトボトボと自分の席を探している。「遅れている犯人はコイツか」みたいな皆の視線が痛い。
あーそうだよ。俺様がオマエらを待たせたんだよ。うるせーよ。わりいかよ。
 
アテンダントさんがやってきて聞いた。「何かお飲み物をお持ちしましょうか。何がいいですか。」
私は半分冗談で言った。「ビア(ビール)、プリーズ」
そしたら本当にビールが出てきた。(まじかよ)
まあ確かにドイツでは、ビールは水みたいなもんだよな。とりあえず一気飲み。再び汗が吹き出た。
 
こうして無事に日本に帰ることができました。
ところであの日、あの夜、ミュンヘンでは何のオペラ、コンサートがあったのだろうか・・・。