クラシック、オペラの粋を極める!

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2016/6/2 サンクト・ペテルブルクフィル

2016年6月2日  サンクト・ペテルブルクフィルハーモニー管弦楽団   サントリーホール
指揮  ユーリ・テミルカーノフ
 
 
サンクト・ペテルブルクフィルによるタコ7は特別だ。タイトルそのまんまだからだ。
もちろんスターリンや戦争といった政治的な負の記憶で、市民や音楽関係者の中にはネガティブに捉える人もいるかもしれない。
だが、純粋に演奏面において、このオーケストラだからこそ実現できるスタイル、このオーケストラでしか成し得ない成果は確実に存在する。それは、絶対に聴き逃してはならない貴重なものだ。
 
実際、2003年10月、まったく同じプログラムの来日公演は、脳裏に焼き付いて忘れられない壮絶な名演だった。もう一度この演目を披露してくれることは、実に喜ばしい。
 
あの13年前の公演から変わったこと。
指揮者テミルカーノフが更に一段と孤高の存在となり、あたかも作曲家の魂を呼び出すシャーマンように超然としたタクトを展開していること。ショスタコーヴィチに関しては、もはやテミルにしか到達し得ない悟りの境地にまで達している。
本来コンサートホールというのは、演奏者と聴衆が緊密に結ばれる場だというのに、この日の演奏を聴きながら、会場と指揮者の距離というものを感じてしまった。これは、聴き手の心に届かないという意味ではない。あまりの崇高さに恐れ多くて近寄れないといった印象を抱いてしまったのだ。
「テミルは、今や先代ムラヴィンスキーの領域に達しようとしている。」こう確信した一夜だった。
 
また、オーケストラの音色についても、少しずつではあるが、旧レニングラード・フィル時代に比べ変化の軌跡が見られる。
相変わらず重量級の音だ。しかし、かつてシベリアの大地から吹き付けるようだった氷の音色は面影が見られない。その代わりとして、現代的かつ普遍的な魅力の機能美を兼ね備えるようになった。
好みは別として、それはあたかも、ロシア芸術の栄光を未来にまでつなげるかため、自ら果たした変貌のように私には感じられた。