2016年4月3日 新国立劇場
マスネ ウェルテル
指揮 エマニュエル・プラッソン
演出 ニコラ・ジョエル
いやー、まいった。なんて美しい舞台なのだろうか。思わずウルウルきてしまった。
甘美な音楽、上品で洗練された舞台、ドラマに完全フォーカスした演出。そして極めつけがこれ以上ない配役が揃った歌手陣。すべてが整い、比類ないとびっきりの公演に仕上がった。
もうね、誰が何と言おうと主役の歌手のお二人なのだ。ウェルテル役のコルチャック、シャルロッテ役のマクシモワ。
それでいながら、人として、若者として、愛を尊び、愛に命を懸けているのがひしひしと伝わってくる。二人のほとばしる情熱が観ている者の胸を打つ。苦しいほどの感傷性を全力で表現していたのが、コルチャックとマクシモワだった。
つくづく思った。これはヨーロッパの物語だと。ヨーロッパのとある時代にあった出来事。当時の社会について時代考証を徹底的に図り、ロケーションや伝統的衣装にとことんこだわった純正演出。二人はロシア人なのだが、ドンピシャはまっている。まるでバロック絵画から抜け出たかのような美男美女。
それにしても、これほどまでにビジュアルに特化されたオペラの舞台を見たことがあっただろうか。
これをやられちゃうと、残念だが、我々ジャパニーズの出番じゃない。歌とかそういう問題じゃなく、彼らにかなわない。白旗上げて潔く諦めるしかない。
指揮者がミシェル・プラッソンからその息子に変わったのを知った時はがっかりしたが、なかなかどうして、非常に良い。
物語を理解している。演出を理解している。そしてマスネを理解している。それが見事に音に表れていた。
上でさんざんビジュアルについて称えたが、そのビジュアルをぴったりと支えていたのが、子プラッソンの音楽だった。
魅力に乏しく、期待を裏切られることもしばしばの新国立プロダクションだが、今回は、以上のとおりで完全に脱帽。ダメなものはダメだが、良いものは良い。良い時は素直に褒めます。諸手を上げて絶賛しますよ。