クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

2014/3/8 びわ湖ホール 死の都

2014年3月8日  沼尻竜典オペラセレクション   びわ湖ホール
コルンゴルト   死の都
指揮  沼尻竜典
演出  栗山昌良
鈴木准(パウル)、砂川涼子(マリー/マリエッタ)、小森輝彦(フランク)、加納悦子(ブリギッタ)、岡田尚之(ガストン)、迎肇聡(フリッツ)   他
 
 
このオペラを観たかったら、海外に行かなければならない。
なぜなら日本では上演されることがまずないから。
過去にコンサート形式上演で演奏されたことがあるが、本格舞台上演は今まで一度もなし。
なぜ?名作なのに・・・。
   
「それでもいつかそのうちきっと」と思っていたら、なんと、二週続けて異なるプロダクションを観る機会が訪れた。こんなことは、もう二度とないだろう。
 
 その日本初の本格舞台上演の快挙は、外来歌劇場でもなく新国立でもなく、びわ湖ホールが成し遂げた。今や大野和士に続くオペラの逸材指揮者、沼尻氏とともに。本当によくやってくれました。もともと海外に行かなければ観られないオペラなのだから、埼玉からわざわざ滋賀に行くことなんか全然大したことありません。
 
 やはり素晴らしかったのは、その沼尻さんの渾身の指揮による音楽であった。
 今回私はピット内で獅子奮迅の活躍を見せた氏のタクトを見つめる時間がかなり長かったのであるが、この曲の魅力を余すところなく引き出していたと思う。初めて聴いた人でも分かりやすく、耳にスーッと入ってきたのではないか。
 また、スコアの読解が万全で、暗譜していたかどうかは定かでないが、ほぼそれに近いくらい掌握していた。全体としてメリハリがあり、パンチがあり、そして甘美で、これぞコルンゴルトであった。
 
 手際よく明瞭なタクトを見て、その指揮している後ろ姿が故若杉弘さんと重なった。指揮ぶりが特段似ているというわけでもないのに、どういうわけか彷彿させた。
 それは、かつてびわ湖ホールで自らプロデュースオペラを手がけ、珍しい作品を上演した若杉さんのパイオニア精神がしっかりと受け継がれている何よりの証拠ということであろう。
 
あわよくばオーケストラの音にもっと艶があれば、と思ったのだが、まあ高望みは禁物ということで。
 
 歌手ではマリー/マリエッタを歌った砂川さんに最大級の賞賛を。
 驚いた。というのは、この人は完全にイタリア系のリリックソプラノだと思っていたので、これほど見事にドイツオペラを歌いこなすとは予想できず、あまり期待していなかったのだ。声は瑞々しく透き通っていて、大変美しい。そして力強さもある。この役をモノにしたことは、彼女にとって一つのステップになったのではないだろうか。
もっとも、同役を今後また歌う機会なんかまずないのでしょうけどね(笑)。
 
 演出について。
 日本の重鎮演出家である栗山氏は、歌手の歌っている時の動きを極端に抑えていた。歌う時は正面を向かせ、ほとんど棒立ちにさせていた。その演出プランについてびわ湖ホールの情報誌に掲載されていたのだが、「限りなく音楽を生かさなければならず、あらゆることを殺しても歌を生かしたい。」という配慮なのだそうだ。
 
しかし。
私は疑問を呈する。本当にそれでいいのであろうか。
 
つまり、棒立ちで歌わせるのが本当に歌を生かすことになるのであろうか、ということだ。
 
 オペラというのは言うまでもなく音楽劇であり、まさに心情が揺れ動くドラマなのである。演出というのは、その心情の揺れ動きを一段と高める役割を担っているはずだ。棒立ちで歌わせて、どうやってそれを観客に届けようというのであろうか?
 事実、このオペラの重要な要素である、パウルの幻想と現実の狭間の葛藤や、マリエッタの美貌や若さを兼ね備えた自信から生まれる自由奔放なエネルギー、そして「こんなに私は若くて美しいのに、どうして死者に負けなければならないの?」という強烈なプライドなどが全くと言っていいほど見えてこなかったのである。
 
 上で「今回私はピット内の指揮を見ている時間が長かった」と書いたのは、そんな栗山演出に魅力を見出すことが出来なかったからだ。
 
 私は、演出は歌手にインスピレーションやヒントを与え、歌に創造性や発展性をもたらす物だと思っている。その可能性を探り、目指すことこそが、音楽と演出の共同作業というものではなかろうか。それこそが演出家の役目なのではないだろうか。音楽を妨げないようにと棒立ちさせることは、逆にそうした探求を阻害することにつながると思う。
 
 まあしかし、そうした演出面の不満はあれど、今回の公演はやっぱり上演そのものが画期的だったという意味で、良しとしようと思う。やってくれただけで感謝しなければならないというわけです。
 来週の新国立も楽しみ~。演出ももっとマシになると思う(笑)。