4月3日に「ムーティ様、御来日!?」というタイトルで記事を書き、「ホントかよ!?」と驚いたところだったが、なんと、この時、ムーティはもう既に日本への入国を済ませていたのであった。
このムーティを含めた外国人キャストの来日実現の経緯、関係省庁との交渉過程については、東京・春・音楽祭事務局の担当者が、公式HPの中の記事「ふじみダイアリー」で詳しく紹介している。内情が詳らかにされており、非常に興味深い。担当者さんは相当ご苦労されたみたいだ。
案の定というか、当局は入国を許可するにあたり、申請した音楽祭のアーティスト全員には難色を示し(事実、入国が叶わなかった、あるいは間に合わなかったキャストは多数いた)、ムーティのような「抜群の国際的知名度のある人」と「そうでもない人」とで選別の色分けをして、当初は「ムーティ一人だけの来日でどうか?」みたいな回答を出してきたという。
やっぱりな・・。どうせそんなことだろうと思ったよ。
結局、当局にしても政府にしても、ウケのいい政策、インパクトがあって宣伝効果が見込める発表をしたいということだ。まさに昨年のウィーン・フィルと同じ。
まあ、なにはともあれ外国人の入国については、全面解禁には至らずとも、「一部について、条件付きで認める」方向が示された。これは、一歩前進と言えるだろう。
こうして新国立劇場「ルチア」の外国人指揮者や歌手などのキャストが来日を果たし、日本フィルのラザレフ将軍も来日を果たした。更には、これからバレンボイムもアルゲリッチもやってくる。楽しみが増えてきたわけだ。
さて、二週間待機さえも免除になった「特例待遇」の大御所R・ムーティによる「マクベス」作品解説(イタリア・オペラ・アカデミーin東京vol.2)が昨日東京文化会館で開催されたので、これに行ってきた。
開演の定刻になると、いつもと変わらないマエストロが元気に登場。本来なら、このアカデミーは昨年に実施するはずだった。ようやくの実現に「お待ちしておりました! ようこそ!」という気持ちでのお迎えだ。
ステージには、アカデミー参加者兼本公演出演者である日本人歌手も登場。元々の予定ではなかったらしく、急遽の決定だったようだが、これによって、作品解説のお話(講演)というよりも、歌手たちのリハーサル・稽古風景、あるいはマスタークラスみたいな形式になり、俄然白熱することとなった。
ムーティが話すこと、その主義主張については、彼がずっと前から言い続けていることで、潔いばかりに一貫している。
端的に言えば、要するに「スコアに忠実であれ」ということに尽きる。
一昨年、同様に「リゴレット」解説のイベントがあったが、その時もだいたい同じようなことを話していたし、彼のドキュメンタリー映像等を見ても常に似たようなことを語っている。
つまり、音楽家の使命として、生涯をかけて取り組んでいるテーマと言っていいだろう。
逆に言えば、現代のクラシック演奏現場において「いかにこのことが疎かにされているか」という裏返しに他ならない。ムーティはこれに危惧し、警鐘を鳴らす意味で積極的に活動しているわけである。
「表現が許されているのは作曲家だけなのだ」
マエストロが語ったこの一言は、重みを持っている。
一方で面白かったのは、指揮者という音楽家でありながら、「テキスト(脚本)」に沿った演技や歌い方にこだわりを持っていることである。
歌手に対し、歌もさることながら、話し方(例えばマクベス夫人が手紙を読む時のセリフの言い回しなど)まで徹底する。
これは、演奏家は音楽的な部分だけでなく文化や言語までも押さえる必要性を説いている、ということだろう。
「イタリアと言えば、『太陽』『トマト』『モッツァレラ』『ピザ』と思っている人が多い。でもそうではない。『ミケランジェロ』『レオナルド・ダ・ヴィンチ』『ラファエロ』・・・これらがイタリアなのです。」という言葉も印象に残った。
マエストロは、歌手たちに「なぜ、そのように歌いましたか?」「なぜだと思いますか?」「どう思いますか?」などと積極的に疑問を突き付けていた。
「perché?(なぜ?) perché? perché?」
「perché?って日本語で何て言うんだい? ん? 『ナ・ジェ?』」
には笑ってしまったが、これに対して歌手の方々は誰一人明確に答えることが出来ない。当惑の表情を繕いながら指揮者からの回答を待っている。
日本人という民族は「間違っていたら嫌だな、恥ずかしいな」という気持ちが先に立ち、正々堂々と意見を言えないというのが、はっきりと露出した瞬間。
これが欧米人なら、お構いなしで積極的に自分の考えを主張するだろう。
つくづく日本人だな、と思う。
2021年4月9日 東京・春・音楽祭 イタリア・オペラ・アカデミーin東京vol.2
リッカルド・ムーティによる「マクベス」作品解説 東京文化会館
青山貴(マクベス)、谷原めぐみ(マクベス夫人)、加藤宏隆(バンクォー)、芹澤佳通(マクダフ)、城 宏憲(マルコム)、北原瑠美(侍女)、浅野菜生子(ピアノ)