2023年12月17日 東京交響楽団 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮 ユベール・スダーン
シューマン 交響曲第1番 春(マーラー編曲版)
ブラームス ピアノ四重奏曲第1番(シェーンベルク編曲版)
2年ぶりのスダーン先生。
2年前と言えば・・・コロナで外国人入国制限が実施されたあの時。
多くの外国人指揮者、演奏家たちの来日がキャンセルになる中、制限措置適用の寸前に来日、滑り込みセーフ。当初契約の公演だけでなく、滞在期間を延長して来日出来なかった指揮者の分の代替を引き受けて危機を救い、一躍大功労者となったのであった。
最終的な滞在期間は、トータル3か月くらいだったか。
スダーン先生、あの時私は「もしかしてヒマですか??」なんて勘ぐっちゃいました(笑)。ホントごめんなさい。日本のクラシックファンは、先生に感謝してますからねー。
ということで、今回の公演。
私が殊更に指摘するまでもなく、今回のプログラムは、近代作曲家によって手直しされたドイツ・ロマン派作品を並べるという、こだわりの構成だ。
ただし、一口に編曲版といっても、シューマンのマーラー版が既存の交響曲のスコア構成上の補完であるのに対し、ブラームスのシェーンベルク版の場合は、室内楽作品を管弦楽版にするという完全アレンジというのが、違い、ポイントになっている。
この違いは大きくて、ブラームスの方は編曲によって作品のカテゴリーが変わり、新たに誕生した別作品になったと言ってもいいくらい。まあそれは当然のこと。ムソルグスキーの「展覧会の絵」のピアノ版と管弦楽版の味わいが大きく異なるのと、まったく一緒だ。
で、そうした妙味も含め、作品を巡る4人の作曲家と、それぞれの技法やアプローチに思いを寄せて欲しい、というのが本公演の狙いだろう。
さて、聴いた感想であるが、もちろんこうしたプログラムの趣旨や狙いの面白さ、発見もあったが、そんなことより、とにかく演奏そのものが素晴らしかった! ただもう、これに尽きる!
前日のN響の記念公演について、鑑賞記の中で「記念碑に相応しい圧倒的な名演奏だったかと言うと、それはちょっと分からない」と書いたが、この日の公演については、断言しよう、ズバリ「The 名演!」であった。
思わず唸ってしまったが・・・まあ、考えてみれば、そうだよなー。だって、スダーン先生だもんなー。こういう演奏を作るわなー。
いつもながら、アーティキュレーションには徹底的にこだわっているが、ただ単に細部を詰めているのではなく、曲の全体構成を的確に読み解き、クリアな造形を作っているので、音楽がすっきりと明快。表情の変化や色彩の描写も抜かりがない。
そして、こうした指揮者の探究を十分に汲み取りながら、スダーンの懐の中で伸び伸びと演奏表現を展開していくオーケストラ奏者たち。
桂冠指揮者との長年の結び付きによる如実な成果が大きく開花している様子を、直に目撃。
これが「◯◯回記念!」みたいな特別公演でなく(どこかの?)、普通の定期公演で軽く繰り出してくるスダーン&東響の円熟コンビ、さすが。