クラシック、オペラの粋を極める!

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楽器リレー

 7月12日の東響の公演中、面白いシーンを目にすることが出来た。
 コンサートマスターのヴァイオリンが故障したのだ。別に破損したわけではなく、たぶん弦が切れた程度だろう。弦楽器に時々起こる軽微な事故だ。

 第1楽章終了後(演奏中ではななかった)、コンマスは後ろを振り向き、真後ろに座っていた二列目奏者の楽器と交換した。受け取った二列目奏者は、今度はそれを隣で弾いている奏者に渡し、同奏者の楽器と交換。以下、壊れた楽器が順次後ろの奏者へと渡っていくと同時に、後ろの奏者の楽器を譲り受ける。最終的に一番後ろで弾いている奏者がそれを受け取ると、その奏者は壊れた楽器を修繕するために退席する。これがいわゆる‘楽器リレー’というやつである。

 私も大学生時代、オーケストラ部でヴァイオリンを演奏していたので、このリレーについてはよく知っている。改めて解説しましょう。

 なんでこんなことをやるかというと、オーケストラの席順には概ねルールがあって、‘だいたい’偉い順に並んでいるのである。指揮者に最も近いコンマスが一番偉いのは言うまでもない。(‘だいたい’というのは、プロオケだと後ろの方は並び順についてそれほど厳格ではないということを聞いたことがあるから。それでも前の方が偉いのは間違いない。)
 さらに、弦楽器は必ず二人一組で並んでいる。二人で一つの楽譜(譜面台)を共有しているのですぐお分かりになると思う。これをプルトと呼んでいる。同じプルト内でも表と裏があって、表の方が偉い。演奏中に楽譜をめくるのは、たいていの場合、裏奏者の作業である。

 偉い人、つまり前方の人とか同じプルトの表で弾いている人は、演奏に対する責任が大きい。だから、演奏中に弦が切れるなどのハプニングが起こった場合、退席せずに後ろの人の楽器を譲り受けて演奏を続行する。上記の通り序列になっているので、楽器の受け渡し作業が繰り返され、このためリレーになるのである。


 だが、私は思う。
 そんな、いちいち一人ずつ楽器を交換しなくてもいいのではないか、と。

 なぜかというと、こうやって一人ずつ楽器交換を行うと、大半の奏者の楽器が入れ替わってしまうからである。
 大切な自分の楽器を人に渡し、替わりに慣れていない人の楽器で演奏しなければならない。絶対に違和感があるはずだ。ましてや楽器は高価品、落ち着かなくなるかもしれない。果たしてそれで最高の演奏が出来るのであろうか?


 私は、「せいぜい2プルトまでの奏者の楽器に事故が起こった場合は、規定のルールどおりにリレーを行い、それ以下はいちいちリレーせずに自分で舞台袖に引っ込めばいいんじゃないの?」と思う。楽器をいちいちチェンジしていく手間が省けるし、他人の楽器で演奏するリスクを最小限に食い止められると思うからだ。

 とまあ、偉そうに論説ぶったが、こんなことを部外者である私が個人のブログで意見を述べたって何も変わることはない。あくまで私の意見だ。お許しいただきたい。

 ちなみに、私は自分が所属した大学オーケストラで、当時、上級生になってようやく偉くなり、パートリーダーに登り詰めた段階で、持論の通り「楽器リレー廃止」を打ち出し、上記の通り実行しました。

 で、今、ふと思う。「現在の我が大学オケは、どうなっているのかなあ?」

 たぶん、元のリレールールに戻っちゃっているんだろうね。


 東響に話を戻す。
 コンマスの楽器は第2楽章の間にきちんと修復され、第3楽章の前に直った楽器が戻ってきました。(一番後ろの奏者は、かわいそうに、第2楽章は舞台袖に引っ込み、演奏することが出来ませんでした。)

 直った楽器を再びリレーして一つ一つ楽器をチェンジしているのを見て、「やっぱ、効率わりいよな~」と思いました(笑)。