クラシック、オペラの粋を極める!

海外旅行はオペラが優先、コンサートが優先、観光二の次

仮面舞踏会

 イタリアオペラには好きなところと嫌いなところがある。
 もちろん好きなところ多々あるが、嫌いなのは、どのオペラもやたらと恋に悩んでいることが多いということだ。王様、王子、将軍、伯爵、お姫様、お嬢様・・・みんな常に恋に悩んでいる。歴史上の偉人の伝記がどんどん恋物語にすり替わる。スペインを統治したフェリペ2世は妻をめぐって王子と争っているし、英国のエリザベス1世も、ドニゼッティにかかると三角関係に悩むただの女性になってしまう。あのさあ、ちゃんと政治をしましょうよぉ(笑)。ねえ。

 この仮面舞踏会のリッカルドもまったく同じ。常に恋に悩んでいる。総督という立場なのに、部下の妻を愛している。総督という立場なのに、怪しげな占い師のところや薄気味悪い死刑場に一人でひょいひょい出掛ける。なんだかなあ。軽いなあ。

 と、これだけだったらただの軽薄なオペラだが、グッと物語を引き締めてくれるのが、裏切られて忠臣から復讐へと転化するレナートの激情だ。リッカルドへの恨みを歌うレナートのアリア、それから反逆者のサムエル、トムと一緒に歌う復讐を誓う歌は最高でぞくぞくする。暗殺の役を選ぶ抽選の場面も緊迫度満点。そういうわけで私はこの第3幕第1場こそこのオペラのハイライトであると確信する。まさにヴェルディの真骨頂である。
 
 話は変わるが、一昨年、ストックホルムに行った。王宮博物館があって、そこにリッカルドのモデルであるグスタフ3世が射殺された時に着ていた服が展示されてあった。服にはピストルの弾で貫通した穴があった。生々しい展示物であったが、私はそれを見たとたん、このオペラのリッカルドの臨終の音楽がぐるぐると頭の中を回りだした。撃たれて死に際なのに、よくあんな長いアリア歌うよな、なんてつまらんこと考えていたら展示物の前でニヤニヤしてしまった。グスタフ様すみません。