指揮 アンドレア・バッティストーニ
演出 ダニエレ・アバド
青山貢(ナブッコ)、今尾滋(イズマエーレ)、斉木健詞(ザッカーリア)、岡田昌子(アビガイッレ)、清水華澄(フェネーナ) 他
イタリアから驚異の指揮者が出現した。とてつもない才能、次世代のヒーローを、我々は日本で目撃した。
アンドレア・バッティストーニ、若干24歳。この年齢でもう既にキャリアが着々と積み重なっていて、パルマ、ヴェローナ、トリエステ、ナポリ、ヴェネチア、バーゼル、バレンシアなどの歌劇場に客演しているという。そして来月は、頂点とも言うべきミラノ・スカラ座で「フィガロの結婚」を振ることになっている。
おいおい、24歳といったら、指揮者の世界ではまだまだ先生に付いて修行中の身ではないか。それが、もう「スカラ座デビュー」だってよ・・・。
しかし、その早熟なキャリアに偽りがないことを証明するのに、時間はほとんどかからなかった。冒頭の序曲だけで、あっという間に聴衆は引き込まれる。
力強く、素早く、ダイナミックなタクト。それでいて、寸分の迷いもなく正確。細かいニュアンスも瞬時に振り分け、緩急自在。テンポは快調で常に前向き。
この‘いきのいい’若者の熱く鋭い指揮ぶりを見ながら、私は一人のイタリア巨匠の若かりし頃を思い出す。
そう、リッカルド・ムーティだ。私が最も敬愛する指揮者。彼もまた、若い頃から一瞬にして聴衆を虜にするパッションの持ち主だった。
果たしてバッティストーニは、これからも着実に輝かしいキャリアを築きながら、ムーティのような巨匠への道を歩んでいくのであろうか。それとも、世界に大勢いる「良い指揮者の一人」として埋もれるのか。
鍵となるのは、オペラだけでなく、コンサート指揮者としてどれだけ活躍できるか、であろう。イタリアには、レナート・パルンボ、ステファノ・ランザーニ、ブルーノ・カンパネッラ、リッカルド・フリッツァなど、オペラ分野の専門職人的指揮者が多くいるが、やはりオペラだけでは世界最高の指揮者として認められない。「オペラとコンサートは車の両輪」とカラヤンは言っていた。トスカニーニ、ジュリーニ、アバド、ムーティ、シャイーなどのクラスに行くためには、コンサート分野の活躍が不可欠である。その点も含めて、バッティストーニの今後の活躍を注視することとしよう。
出演した二期会の歌手たちは、まずまず、健闘というところ。文句はないが絶賛というほどでもない。
日本人歌手が、外国人歌手に比べて全面的に劣っているとは思わないけど、それでも「やはり違う」と感じてしまうことがある。
まずは声のスケール。体格の差に伴うものなのでこればかりはどうしようもないのだが、歌手は体そのものが楽器であるため、出力容量で如実に差が出る。残念だが、現実です。
それと、演技。日本人はなぜかぎこちない。また、他人が歌っている時、横でただ棒立ちしている人が多い。別にバタバタと動けというつもりはないが、役に入り込んでいればもう少しやり様があるのではないか。