クラシック、オペラの粋を極める!

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2013/12/8 トリノ・レージョ トスカ

2013年12月8日  トリノ王立歌劇場   東京文化会館
プッチーニ  トスカ
指揮  ジャナンドレア・ノセダ
演出  ジャン・ルイ・グリンダ
パトリシア・ラセット(トスカ)、マルセロ・アルヴァレス(カヴァラドッシ)、ラード・アタネリ(スカルピア)、ホセ・アントニオ・ガルシア(アンジェロッティ)   他
 
 
 いったいいつ以来だろう、トスカを観て感動したのは。
 昨年5月にイタリアオペラの殿堂であるスカラ座で観た時も全然感動できなかったし、ウィーンで観た時もそうだった。11年前のボローニャ歌劇場来日公演の時なんか「金返せ」と思った。名作のため鑑賞する機会も多いが、意外なほどに感動の公演に接した記憶が少ないのである。
 
 トスカは、初心者向けっぽいオペラのようでいて、実は演奏側、とりわけ歌手にとって要求される要素が大きい、非常に難しい作品だ。数々のオペラの中で、これほどまでに‘ドラマ’な作品はそうはない。さらに時代や場所が厳密に特定されている物語なので、演出によって設定を変えたり、抽象的な舞台にしたり、新たな人物像を創出したりすることがほとんど不可能。
 それゆえ、歌手は演出に頼ることなく、オリジナルの劇の中で役になりきり、100%没頭し、観ている人をドラマに引き込まなくてはならない。ある意味、歌を超えたというか、歌っていることを忘れさせるほどの相当な演技力が必要だ。つまり、歌を歌うだけでは不十分なのだ。
 にも関わらず、歌だけ歌っている歌手のなんと多いことか。(もちろんみんな演技っぽいことはやっているが。)なかなか感動の舞台に巡り逢えない理由は、そこなのだ。
 
(偉大な指揮者や専門家、論客連中が意外とも言えるほどプッチーニを敬遠したり、見下したりする傾向があるのは、実はこうした音楽以外の要素を求められることが原因なのではないかと私は推測する。)
 
 今回私が感動できた理由の一つは、主役トスカを演じた(あえて歌ったではなく、演じたと書かせてもらう)パトリシア・ラセットが、そうした意味において全身全霊のトスカを披露してくれたからだ。
 
 彼女の歌い方については、聴き手の好みによってひょっとすると意見が別れるかもしれない。強くて大きな声だが、演技に比べるとちょっと大雑把な部分は感じられた。
 それでも評価したいのは、彼女が完全にトスカになりきっていたことだ。なぜトスカという女性があんなにも激情的なのか、なぜスカルピアを殺すことが出来てしまうのか、私はよく理解できた。絶体絶命の中で心が引き裂けられる様子が手に取るように分かって心から同情したし、スカルピアにとどめの一発を食らわせた時は、あまりの迫真さに思わず「怖ぇ~!!」と目を背けてしまうほどだった(笑)。
 上にも書いたとおり久しぶりに感動できたのは、彼女の貢献が少なくない。だから称賛を贈ろうと思う。
 
 今回観られなかったが、ダブルキャストのもう一人ノルマ・ファンティーニも、本物のトスカを歌いかつ演じられる、この役における世界最高の歌手の一人。彼女の出演日もさぞや盛り上がったことであろう。私だって、フリットリ目当てにチケットを買った結果ラセットになってしまったが、そうでなかったらファンティーニを選んだはずだ。
 
 さて、もう一人の主役、カヴァラドッシのマルセロ・アルヴァレス。これはもう最高絶品、国宝級のナイス、極めつけの千両役者だった。
 いやはやマルセロ、絶好調だったではないか!これまで聴いてきた中で、ベストとも言える出来だったと思う。前々回の来日時のロドルフォ、前回の来日時のドン・ホセよりも良かったし、なによりも昨年5月にミラノで聴いた同じ役(カヴァラドッシ)よりもはるかに優れていた。
 スカラに出演した時よりも良かったのだ!ワタシが言うのだから間違いない。東京で聴いた諸君、喜び、そして溜飲を下げるがよい!
 
 指揮のノセダも相変わらずグッジョブだ。
 特に、第一幕のトスカとカヴァラドッシのやりとりの場面では、夢のように美しい音楽を作っていた。
 ここのイチャついている場面は、お熱い二人に思わず「オマエらええかげんにせいよ」とツッコミを入れたくなるのだが(・・え? そんなことない? あっそ・・)、ノセダが産み出したとろけるような愛の世界に、いいオジサンが思わずうっとりとなってしまいました(笑)。どうやらノセダ氏はアモーレの本質がいったい何であるか、経験上よーく知っているようだ。さすがはイタリア人である。
 
 冗談はさておき、今回の来日公演で、日本のオペラファンの中で指揮者ノセダの株が急上昇したことは間違いないだろう。彼こそが我々を日常から切り離し、オペラという夢の世界に誘ってくれる貴重な水先案内人だ。彼のオペラをまた聴きたいと思った人は少なくないはず。
 大丈夫、間違いなくまた来てくれるでしょう。その時を楽しみに待つとしようではありませんか!